もふもふ不動産のモフです。もふもふしたものをこよなく愛する投資家で、元SONYやキオクシアで先端半導体の研究開発者。登録者25万人のYouTube「もふもふ不動産」を運営しています。投資やテクノロジーで役立つ情報を発信しています!
「中国の半導体って実際どこまで来てるの?」——米中対立のニュースが日常になった今、この問いは投資家にとっても避けて通れないテーマになりました。僕はキオクシアでフラッシュメモリの研究開発を16年やっていた元業界人として、中国メーカーの製品を「脅威かどうか」という目線でずっと追いかけてきました。
この記事では、中国半導体の全体像を「どの分野が強くて、どの分野がまだ弱いのか」という地図として整理します。個別メーカー(メモリのCXMT・YMTC)の深掘りは別記事で書いているので、まず全体を掴みたい方はこの記事からどうぞ。詳しい経歴は研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
よくある質問
中国の半導体自給率はどのくらいですか?
2026年時点の推計で全体30〜40%程度、外資系工場を除いた中国地場企業のみでは15〜20%程度とみられています。「中国製造2025」の目標だった70%には届いていませんが、10年前の1桁%台からは着実に上昇しています。
中国は最先端の半導体を作れますか?
3〜5nm級の最先端はASML製EUV露光装置の輸出規制により量産が困難な状況です。一方、SMICはEUVを使わない多重露光で7nm級に到達しており、EUV依存度が低いメモリ分野(CXMTのDRAM・YMTCのNAND)では世界の先頭集団に迫っています。
大基金とは何ですか?
中国の国家集積回路産業投資基金の通称です。2024年5月に設立された第3期は3,440億元(約7.4兆円)と過去最大で、日本のラピダス支援(累計約2.9兆円方針)や米国CHIPS法の製造補助金(約390億ドル)を上回る規模です。
中国半導体は日本の投資家にどう影響しますか?
メモリ株には中国勢の増産が中期的な供給過剰リスクとなり、成熟プロセス分野の日本メーカーには価格圧力になります。製造装置・素材メーカーには中国投資の恩恵と輸出規制リスクの二面性があります。
中国半導体の現在地——自給率30〜40%の意味
まず全体像の数字から。2026年時点の推計で、中国の半導体自給率(中国国内で使う半導体のうち国内生産の割合)は全体で30〜40%程度。ただし外資系工場の生産分を除いて中国地場企業だけに絞ると15〜20%程度とみられています。
「中国製造2025」で掲げた自給率70%という目標には遠く届いていません。ここだけ見ると「大したことない」と思うかもしれませんが、大事なのは方向と速度です。10年前の中国の地場自給率は1桁%台とみられていました。規制で締め付けられながらも、着実に積み上げてきているのが実態です。
構図: 先端は止められ、成熟は伸びる
中国半導体を理解する一番シンプルな地図は、「先端プロセス」と「成熟プロセス」を分けて見ることです。
先端(3〜5nm)は止められています。最先端チップの製造に必要なEUV露光装置は、オランダASMLからの輸出が規制されていて中国には入りません。EUVなしで3nm級を量産するのは、僕ら業界人の感覚では「橋なしで谷を渡れ」に近い難題です。この分野で中国はTSMCやサムスンに数世代の遅れを取っています。
成熟(28nm以上)は急拡大しています。EUVが不要な成熟プロセスでは、SMICをはじめとする中国勢が生産能力を猛烈に増やしています。クルマや家電に使うパワー半導体・アナログ半導体の分野では自給率がどんどん上がっており、世界の成熟プロセス生産能力に占める中国の比率上昇は、日本や台湾のメーカーにとって価格競争の圧力になっています。
そしてこの中間にいるのがメモリです。メモリはEUVへの依存度が相対的に低いため、規制の網をかいくぐって先端に迫れる——ここが投資家として一番面白く、一番怖いところです。
ロジック: SMICとファーウェイの「復活」
ロジック半導体(CPUやスマホSoC)の中国代表はSMIC(中芯国際)です。EUVなしの旧世代装置(DUV)を使った多重露光という力技で7nm級の製造に到達し、ファーウェイのスマホに搭載されて世界を驚かせました。
そのファーウェイは、米国の制裁で一度スマホ事業がほぼ壊滅したところから、独自チップと独自OSで中国国内市場のシェアを取り戻しつつあります。AIチップでも、NVIDIAの中国向け販売が規制される間隙を突いて、自国製アクセラレーターの採用が国策として進んでいます。
ただし冷静に見ると、多重露光による7nm級は歩留まりとコストの面でTSMCの同世代に遠く及ばないというのが業界の一般的な見方です。「作れる」ことと「商売として競争力がある」ことは別——この区別は中国半導体を評価するときの基本です。
メモリ: CXMT(DRAM)とYMTC(NAND)の実力
僕の古巣であるメモリ分野が、実は中国が世界に一番迫っている領域です。
DRAMのCXMT(長鑫存儲)は、設立10年で世界シェア8%まで急成長し、DDR5やLPDDR5Xの量産まで到達しました。上海市場への上場で最大1.6兆円規模の調達も進めています。技術的には最先端から2〜3世代差というのが僕の見立てです。詳しくはCXMTの実力を解説した記事で書いています。
NANDのYMTC(長江存儲)は、独自のXtacking技術で世界シェア13%前後まで伸ばし、技術的にはキオクシアら先頭集団に肉薄しています。NANDはDRAMよりEUV依存度が低いため、規制の影響を受けにくいのです。こちらはYMTCのNAND技術力を解説した記事でXtackingの中身まで含めて分析しています。
いまはAI需要でメモリ価格が高騰し、キオクシアやSKハイニックスが空前の利益を出していますが(キオクシアの決算解説参照)、中国勢の増産は数年後の供給過剰リスクとして頭に入れておくべき存在です。
国家の本気度——約7.4兆円の「大基金」第3期
中国の半導体産業を語る上で外せないのが国家資金です。2024年5月、中国は国家集積回路産業投資基金の第3期、通称「大基金3期」を3,440億元(約7.4兆円)という過去最大規模で設立しました。第1期・第2期を単独で大きく上回る過去最大の一発で、半導体自給を国家の最優先課題とする姿勢を鮮明にしています。
比較すると、日本のラピダスへの政府支援が累計約2.9兆円の方針、米国CHIPS法の製造補助金が約390億ドル。中国は1つの基金だけでこの規模で、しかも地方政府の基金や国有銀行の融資が別枠で積み上がります。「採算を度外視してでも作れるようになる」ことを優先する国と、市場原理で動く国の競争だという構図は理解しておく必要があります。
日本の投資家にとって何を意味するか
最後に投資家目線での整理です(個人的見解です)。
①メモリ株の中期リスク要因。キオクシア・マイクロン・SKハイニックスなどメモリ株に投資しているなら、中国勢の増産ペースは「いつかサイクルを終わらせる要因」として監視すべきです。目先のAI特需とは別の時間軸の話です。
②成熟プロセス分野の価格圧力。パワー半導体など成熟分野で戦う日本メーカーには、中国の過剰生産能力が直接の価格圧力になります。
③装置・素材メーカーへの二面性。中国の投資拡大は日本の製造装置・素材メーカーの売上になる一方、輸出規制の強化は売上減少リスクになります。規制ニュースが装置株の株価を動かすのはこのためです。
脅威の全体像を1本で掴んだら、あとはCXMT編・YMTC編で個別の技術力を深掘りしてみてください。
まとめ
YouTube「もふもふ不動産」でも半導体と投資の解説をしています。それでは、また次の記事で!


