元研究者が解説:量子コンピューターの仕組みと投資——Google・IBM・IonQ・Rigettiの現在地

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もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者で、実は学生時代は物理学科でボース・アインシュタイン凝縮(BEC)という量子状態そのものを研究していました(所属していた研究室は日本で3番目にBECを実現)。もともと「量子コンピューターを作りたい」と思って量子力学を学んでいた人間です。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。

その量子コンピューターが今、投資の世界で非常に熱くなっています。2026年5月には米政府がIBMなど量子技術企業9社に総額約20億ドル(約3200億円)を出資すると発表し、関連銘柄の株価が急騰しました。ただ、量子コンピューターは「何がすごいのか」「普通のコンピューターと何が違うのか」がとにかくわかりにくい。この記事では前半で仕組みと方式をかみ砕いて解説し、後半でGoogle・IBM・Rigetti・IonQなど各社の開発状況を整理して、最後に投資先としてどう見るべきかの個人的見解をまとめます。

前半の内容はYouTube動画でも解説しています(後半の各社動向・銘柄分析はメンバーシップ限定動画で扱った内容のダイジェストです)。

量子コンピューターが熱い——米政府が9社に約3200億円出資

まず、なぜ今こんなに注目されているのか。2026年5月、米商務省はCHIPS法の研究開発枠にもとづき、量子技術企業9社に総額約20億ドル(約3200億円・1ドル160円換算)を投資すると発表しました。対象はIBM(量子計算向けウェハー製造の子会社設立に10億ドル)、GlobalFoundries、Rigetti、D-Wave、PsiQuantum、Quantinuumなどで、米政府が各社の株式(少数持分)を取得するという、この分野では過去最大級の直接支援です。

国家が「量子は戦略技術だ」とお金を入れ始めた——これで関連銘柄の株価は急騰し、「量子コンピューターは買いなのか?」という質問をよくもらうようになりました。結論を先に言うと、技術は本物で夢もあるが、投資としてはバイオ株に近いハイリスク領域というのが僕の見立てです。その理由を、仕組みから順番に説明していきます。

量子コンピューターの仕組みの前に——普通のコンピューターは0と1で動く

コンピューターは0と1で表すの解説図。0と1の並びをマス目で塗ると画像として表現できる
コンピューターの中身はすべて0と1。0と1をたくさん並べると文字や画像を表せる

量子コンピューターを理解するには、まず普通のコンピューターの原理から。今あなたがこの記事を見ているスマホもPCも、すべてのデータを0と1の並びで表しています。「0なら白、1なら黒」とルールを決めてマス目を塗れば絵が描けるように、画像も音も動画も、全部0と1の羅列です。この0か1かが入る1つの箱をビット(bit)と呼びます。

電気的には「低い電圧=0、高い電圧=1」のように表現し、トランジスタという半導体のスイッチを膨大に組み合わせることで、足し算も掛け算も、AIの計算までも実現しています。半導体の微細化でスイッチの数が増えるほど計算が速く複雑になってきた——これが今のコンピューターの進化の歴史です。

量子ビット(qubit)とは——0と1が重なり合う「シャボン玉」

量子ビットのイメージ図。0と1が重なった繊細な状態で、見ると確定して壊れ、確定するまでは0と1の重ね合わせで計算する
量子ビットは0と1が重なり合った繊細な状態。観測すると0か1に確定し、重ね合わせは壊れる

一方、量子コンピューターの最小単位は量子ビット(qubit、キュービット)です。普通のビットが「0か1のどちらか」なのに対し、量子ビットは0と1が確率的に重なり合った状態を取ります。「0が50%、1が50%で混ざっている」ような、モヤモヤした状態です。

しかもこの状態、観測すると壊れます。見た瞬間に0か1のどちらかに確定してしまい、重ね合わせは消えてしまう。熱でも光でも振動でも壊れる、シャボン玉のように儚いものです。さらに「量子もつれ」という現象もあります。2つの量子ビットをうまく操作すると、片方を観測して0だったらもう片方が必ず1になる、という不思議な連動状態が作れるのです。アインシュタインが「そんなものはおかしい」とパラドックスとして提起した現象ですが、実験で実在が確認されており、量子コンピューターはこの重ね合わせともつれを使って計算します。正直、直感的には誰にも理解できない世界なので、「そういう不思議な状態を使っているんだな」くらいの理解で大丈夫です。

bitとqubitは別物——量子コンピューターは万能ではない

bitとqubitは別ものの解説図。bitは0か1のどちらか、qubitは0と1が重なった状態で、計算の土台が違う
bitは0か1のどちらか、qubitは0と1が重なった状態。計算の土台からまったく違う

ここで投資家が一番誤解しやすいポイントを先に言っておきます。量子コンピューターは、今のコンピューターの上位互換ではありません。「量子になれば何でも爆速になる」「NVIDIAのGPUを置き換える」というイメージは、現時点では完全に間違いです。

量子ビットは普通の足し算のような計算はむしろ苦手で、因数分解や組み合わせ探索など、特定の種類の計算だけが劇的に速くなる可能性を持っています。ビットとキュービットは原理からして別物で、得意分野がまったく違う。AIの学習を量子コンピューターが置き換える、といった話も現時点では現実的ではありません。ここを理解しているかどうかで、量子関連銘柄の見え方は大きく変わります。

アニーリング方式とゲート方式——七並べとポーカーくらい違う

「量子コンピューター」とひとくくりに呼ばれるものには、大きく2つの方式があります。同じトランプを使う七並べとポーカーくらい、ルールが違います

  • アニーリング方式——エネルギーの山と谷を用意して量子ビットを「投げ込み」、一番低いところ(最適解)を探させる方式。D-Waveが代表格です。組み合わせ最適化(配送ルート、金融ポートフォリオ、工場の生産最適化など)に特化しています。
  • ゲート方式——量子ビットを回路(ゲート)で操作して汎用的な計算をする方式。因数分解(=暗号解読)、分子シミュレーション(創薬・材料開発)などに使えます。Google・IBM・Rigetti・IonQなどが開発しているのはこちらです。

ゲート方式が実用レベルに達すると、現在のインターネットやクレジットカード、ビットコインを守っている暗号が原理的に解けてしまうため、安全保障の観点からも各国が開発を競っています。米政府がお金を入れるのも、この文脈です。

量子状態を作る4つの方式——超伝導・イオン・光・量子ドット

量子コンピューターの量子状態の方式の一覧表。超伝導方式(IBM・Google・リゲッティ・D-Wave)、イオン・原子方式(IonQ)、光方式(NTT・東京大学など)、量子ドット方式(Intelなど)
量子ビットを実現する物理方式と代表プレイヤー。超伝導・イオン/原子・光・量子ドットの4方式で開発が進む

さらにややこしいことに、「量子ビットを何で作るか」にも複数の方式があります。原子も電子も光も量子の性質を持っているので、どれを使ってもいいのです。主なものは4つ。

  • 超伝導方式——極低温で電気抵抗ゼロになった回路(ジョセフソン素子)で量子ビットを作る。集積化しやすく操作が高速な一方、量子状態が壊れやすい。IBM・Google・Rigetti・D-Waveが採用する現在の主流方式です。
  • イオン・原子方式——真空中に浮かせたイオンや原子をレーザーで操る。ノイズに強く量子状態が長持ちする(コヒーレンス時間が長い)一方、操作が遅い。IonQなどが採用。「質のいいものをゆっくり」対「壊れやすいものを爆速で」という対比です。
  • 光方式——スクイーズド光という特殊な光を使う。通信との親和性が高い。NTTや東京大学などが研究しています。
  • 量子ドット方式——半導体のナノ構造に電子を閉じ込める。既存の半導体製造技術と親和性が高く、Intelなどが研究しています。

どの方式が最終的に勝つかは、まだ誰にもわかりません。ここが投資判断の難しさに直結します(後述)。

最大の敵はノイズ——NISQからFTQC(エラー訂正)へ

量子コンピューターの実用化を阻む最大の壁がノイズです。量子ビットは光・熱・振動でいとも簡単に壊れるため、極低温・真空・暗闇という極限環境が必要で、それでも勝手に壊れていきます。おまけに「見たら壊れる」ので、ノイズが乗ったかどうかを直接確認することすらできません。

2001年に量子コンピューターが世界で初めて成し遂げた因数分解は「15=3×5」でした。25年前の最先端がこれです。現在、実用研究の主力機は100量子ビット級まで進み(実験機では1,000量子ビット超の発表もあります)、一部の特殊な問題ではスーパーコンピューターでも解けない計算ができるようになってきました。それでも今はまだNISQ(ノイズあり中規模量子コンピューター)と呼ばれる段階で、ノイズまみれのまま無理やり計算し、統計処理で答えを推測しています。

次の目標がFTQC(誤り耐性量子コンピューター)です。実はフラッシュメモリやCDも、データが化けるのをECC(誤り訂正符号)で直しながら動いています(ECCについてはこちらの記事で詳しく解説しています)。量子コンピューターでも同じ発想で、検査用の量子ビット(パリティ)を並べてエラーを検出・訂正する研究や、「魔法状態(マジックステート)」と呼ばれる特殊な状態を使って足りない操作を補う研究が急速に進んでいます。大阪大学の藤井啓祐教授らが、この誤り訂正研究の第一人者として知られています。今はちょうど、NISQからFTQCへ飛躍しようとしている過渡期——ここからが後半、各社の開発状況です。

Googleの開発状況——Willowと「検証可能な量子優位」

ゲート方式・超伝導で先頭を走る一角がGoogleです。2024年12月に発表した量子チップ「Willow」(105量子ビット)では、量子ビットを増やすほどエラーが減るというエラー訂正の「しきい値越え」を実証しました。エラー訂正の規模を大きくするほど論理エラー率が下がることを示したもので、FTQCへの道筋を付けた歴史的な成果とされています。

さらに2025年10月には、「Quantum Echoes(量子エコー)」というアルゴリズムで、世界初の「検証可能な量子優位」を達成したと発表しました(Nature誌掲載)。スーパーコンピューター上の最速アルゴリズムより1万3000倍高速に計算し、しかも結果を別のマシンで再現・検証できる——2019年の「量子超越」がIBMから「本当にスパコンで解けないのか」と突っ込まれたのに対し、今回は検証可能性まで担保した点が画期的です。分子構造の解析(NMR)への応用も示されており、「使える量子計算」への最初の一歩と評価されています。Googleはエラー訂正済みの論理量子ビットで実用計算を行うまでのロードマップも公開しており、着実にマイルストーンを刻んでいます。

IBMの開発状況——120量子ビットNighthawkと2029年のStarling

もう一方の巨人がIBMです。2025年11月に発表した「Nighthawk」は120量子ビットの超伝導プロセッサで、量子ビット間の接続を増やし、従来より30%複雑な回路(2量子ビットゲート5,000個規模)を実行できます。

そしてIBMのロードマップの本命が、2029年に予定する「Starling」。エラー訂正済みの論理量子ビット200個で1億回規模の量子演算を実行する、大規模FTQCの計画です。実現すれば、材料科学や創薬など「本当に役立つ計算」に手が届くとされています。米政府から10億ドルを受け取る予定で量子専用ウェハー製造の体制も作るとされており、国策企業の色も帯びてきました。「2029年にFTQC」が現実のスケジュールとして語られ始めた——僕が学生の頃には想像もできなかった状況で、素直にすごい時代になったと思います。

Rigetti・IonQ——上場ベンチャーの現在地

個人投資家が直接買える「量子ピュアプレイ銘柄」の代表が、超伝導方式のRigetti(リゲッティ)とイオントラップ方式のIonQ(アイオンキュー)です。

  • Rigetti——2026年4月に108量子ビットの「Cepheus-1-108Q」を一般提供開始。9量子ビットのチップレットを12枚並べる独自のモジュラー構造で、Amazonのクラウド量子サービス「Amazon Braket」からも利用できます(Braket初の100量子ビット超のゲート方式マシン)。米政府出資9社にも入っています。
  • IonQ——イオントラップ方式の代表格。ノイズに強い高品質な量子ビットが売りで、こちらもAmazon Braket経由で使えます。

Amazon Braketには、このほかIQM(超伝導)やQuEra(中性原子)といった各方式のマシンが揃っており、クラウド経由で誰でも量子コンピューターを叩ける時代がすでに来ています。ただし投資目線で冷静に見ると、両社とも株価は期待で乱高下する一方、売上はまだ小さく赤字が続いているのが実情です。株価が実業より先に走っている、典型的なテーマ株の値動きと言えます。

投資先としてどうか(個人的見解)——プラズマテレビとガラケーの教訓

最後に、投資先としての僕の見立てです。ここは完全に個人的見解です。

  • どの方式が勝つか、まったくわからない——超伝導かイオンか光か、それとも全然別のダークホースか。プラズマテレビと液晶テレビの戦いでプラズマが消え、そこに有機ELが現れたように、そして「iPhoneはガラケーに勝てない」と言われていた15年前のように、技術の勝者を事前に当てるのはプロでも困難です。身近な家電ですら外すのに、海のものとも山のものともつかない量子方式を当てるのは、さらに難しい。
  • できても、すぐには儲からないかもしれない——量子コンピューターが完成しても、使うのは当面、超大企業・金融機関・学術研究が中心。ChatGPTのように一般人が毎日使うものにはなりにくく、「1家に1台」の爆発的な市場拡大は現時点では描きにくいです。売上がまだ小さいのに株価だけが先行する構図は、バイオ株に近いと思っています。
  • それでも、夢はある——今の量子コンピューターは1940年代のコンピューターと同じ位置にいます。当時、爆弾の弾道計算をしていた機械が、80年後に1人1台のスマホでAIを動かすなんて誰も想像できませんでした。同じように、80年後には想像もつかない使い方が生まれているかもしれない。国家も本気でお金を入れ始めました。

なので僕のスタンスは、「大きなお金を張る対象ではないが、技術の進捗はワクワクしながら追いかける」です。投資するなら、失っても構わない金額で、複数方式に分散して、長期で。そして株価ではなく「エラー訂正のマイルストーン」を見て進捗を判断する——元・量子を研究していた投資家としては、そういう付き合い方をおすすめします。

まとめ

量子コンピューターのエラー訂正の考え方は、実はフラッシュメモリのECCと地続きです。ECC(誤り訂正符号)を深掘りした記事や、僕が量子力学の研究から半導体開発に進んだ経歴もあわせて読むと、この記事の解像度がさらに上がるはずです。

よくある質問

量子コンピューターと普通のコンピューターは何が違うのですか?

普通のコンピューターは0か1のどちらかを取るビットで計算しますが、量子コンピューターは0と1が確率的に重なり合った量子ビット(qubit)で計算します。原理からして別物で、因数分解や組み合わせ最適化など特定の計算だけが劇的に速くなる可能性がある一方、普通の計算の置き換えにはなりません。

量子コンピューターにはどんな方式がありますか?

計算の枠組みとしては、組み合わせ最適化に特化したアニーリング方式(D-Waveなど)と、汎用計算を目指すゲート方式(Google・IBM・Rigetti・IonQなど)があります。量子ビットの作り方にも超伝導・イオン/原子・光・量子ドットなど複数の方式があり、どれが主流になるかはまだ確定していません。

量子コンピューターはどこまで進んでいますか?

2001年に世界初の因数分解(15=3×5)ができたレベルから、現在は100量子ビット級に到達。Googleは2024年にWillowチップでエラー訂正のしきい値越えを実証し、2025年には検証可能な量子優位(スパコン比1万3000倍)を達成しました。IBMは2029年に論理量子ビット200個の誤り耐性量子コンピューター(FTQC)「Starling」の実現を計画しています。

量子コンピューター関連銘柄には投資すべきですか?

米政府が2026年5月にIBM・Rigettiなど9社へ総額約20億ドルの出資を発表するなど国策の追い風はありますが、どの方式が勝つか予測が難しく、売上より期待が先行するバイオ株型のハイリスク領域だと筆者は見ています。大金を張らず方式を分散し、エラー訂正の進捗を見ながら長期で付き合うのが筆者のスタンスです(投資判断はご自身の責任でお願いします)。

量子コンピューターができると暗号は破られますか?

ゲート方式の量子コンピューターが十分な規模の誤り訂正付きで実現すると、現在のインターネットやクレジットカードを守る暗号(素因数分解ベース)や、ビットコインの楕円曲線暗号が原理的に解けるようになります。ただし現在のNISQ段階のマシンではまだ不可能で、各国が耐量子暗号への移行を進めています。

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