SONYとTSMC合弁会社設立の本当の理由とは?フィジカルAIの覇権を握る戦略か?

もふもふ不動産のモフです。もふもふしたものをこよなく愛する投資家で、元SONYやキオクシアで先端半導体の研究開発者。登録者25万人のYoutube「もふもふ不動産」を運営しています。投資やテクノロジーで役立つ情報を発信しています!

実は僕は2003年から2007年までSONYで液晶ディスプレイの研究開発者として4年間働いていました。当時は「SONYの半導体技術はすごい」と毎日肌で感じていたのですが、退職してしばらく経って、また改めてその技術力のすごさを実感するニュースが飛び込んできました。

SONYとTSMCが合弁会社を設立する、というニュースです。

半導体業界を少し知っているからこそ、これがどれだけとんでもない話かがわかります。今回はこの合弁会社設立の本当の意味と、フィジカルAI時代における2社の野望について、僕なりの視点でお話ししたいと思います。

SONYのCISは世界シェアNo1 — 2つの革新技術

みなさんが毎日使っているスマートフォンのカメラ。あの中には高い確率でSONYの技術が入っています。

CMOSイメージセンサー(CIS)と呼ばれる、いわばカメラの「目」の部分です。スマートフォン向けCISの世界シェアで、SONYはダントツのNo1を誇っています。

このCIS分野、SONYは技術力でも世界最高水準です。特に注目すべきが「グローバルシャッター」と「画素積層(画素分離)」という2つの革新技術です。

グローバルシャッターは、全画素を同時に読み取る技術です。

従来のローリングシャッターは画素を上から順番に読み取るため、動きの速い被写体を撮るとゴムのようにゆがんで映ることがありました。スマホで動画を撮ったとき、速い動きがぐにゃっとなった経験がある方もいると思います。

これ、ロボットや自動運転にとっては致命的な問題なんです。たとえばロボットが作業中に超高速で動く部品を認識する場合、像がゆがんでいたら誤動作の原因になります。グローバルシャッターはこのゆがみを完全に解消し、どんな高速な動きでも正確に捉えることができます。

画素積層(画素分離)技術は、センサーの受光部の上に演算回路を積み重ねる技術です。

センサーとロジック回路が物理的に直結されるため、データの読み出しが桁違いに速くなります。さらにセンサーそのものの中でリアルタイムに演算処理ができるようになるため、外部チップへのデータ転送のボトルネックが大幅に解消されます。

「超高速・超正確・リアルタイム演算」。この3つを同時に実現できるセンサーが、今後の産業・AI市場で爆発的に求められていきます。

TSMCの圧倒的な先端技術力

一方のTSMCは、先端ロジック半導体の製造では世界シェアNo1です。NVIDIAのAI向けGPU「H100」も「Blackwell」も、AppleのM4チップも、すべてTSMCが製造しています。AIブームを支える半導体の心臓部は、ほぼTSMCが握っているといっても過言ではありません。

TSMCの強みは2つあります。

1つ目は最先端プロセス技術です。すでに3nmプロセスの量産を開始しており、2nmへの移行も進んでいます。数字が小さくなるほど、同じ面積により多くのトランジスタを詰め込めるため、チップは高性能・低消費電力になります。

2つ目がCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)と呼ばれる3次元パッケージ技術です。複数の異なるチップを1つのパッケージに3次元的に積み重ねる技術で、チップ間のデータ通信を劇的に高速化します。NVIDIAのAI向けGPUがここまで性能を発揮できるのは、このCoWoSがあってこそです。

このCoWoS、GPUとHBM(高速メモリ)を3次元的に直結することで、まるでひとつのチップのように超高速通信ができます。TSMCはこの技術でも他社を大きく引き離しています。

フィジカルAIに「目」が必要な理由

ChatGPTのようなソフトウェアAIが世界を席巻していますが、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「次の時代はフィジカルAIだ」と繰り返し強調しています。

フィジカルAIとは、ロボット・自動運転車・ドローンなど、実際に物理的な世界で動くAIのことです。

このフィジカルAIにとって、CMOSイメージセンサーは「目」そのものです。

人間も目から入った情報を瞬時に脳で処理して体を動かしますよね。ロボットも同じ仕組みが必要です。カメラで周囲の状況を認識し、ミリ秒以下の速さで判断して動かなければなりません。

ここでポイントになるのが「速度と処理能力」です。

センサーで取得した膨大な画像データを、GPU(頭脳)やHBM(高速メモリ)に超高速で送り込んで処理する必要があります。

理想の形は、CMOSイメージセンサー・GPU・HBMを一つのパッケージに直結して、センサーレベルでリアルタイムに演算まで完結させることです。

SONYの「グローバルシャッター+画素積層」が「超高速・超正確センサー」を担い、TSMCの「2nmプロセス+CoWoS」がセンサーとチップを3次元直結する技術を担う。この2社が組めば、フィジカルAIの「目+脳の直結モジュール」が実現できてしまうんです。

SONYとTSMCが組む本当の狙い

フィジカルAIへの言及が注目のポイント
フィジカルAIへの言及が注目のポイント

ここまで読んでいただけると、なぜこの2社が合弁会社を設立したのか、見えてきたと思います。

フィジカルAIの「目」を制覇する——それが本当の狙いだと僕は思っています。

実際、SONYとTSMCの合弁会社設立のプレスリリースには、明確に「フィジカルAI」という言葉が盛り込まれています。経営陣も意識していることが文書に残っている。これは大事なことです。

半導体エンジニア出身の僕から見ても、この組み合わせは強力すぎます。SONYが持つCISのノウハウとTSMCの先端プロセス・CoWoS技術が融合すれば、フィジカルAI向けの「超知覚センサーモジュール」とでも呼ぶべきものが生まれる可能性があります。

自動運転、人型ロボット、産業ロボット、ドローン……。フィジカルAIが普及すれば、その市場規模は10年後には数十兆円になるかもしれません。

SONYの株価はすぐ上がるのか?

「じゃあSONYの株を買えばいいの?」と思った方も多いと思います。僕もそう思います。ただ、残念ながらすぐには上がらないかもしれません。

SONYの事業を見てみると、売上の約70%がゲーム(PlayStation)・音楽・映画などのエンタテインメント事業です。CISを含む半導体・センシング事業は高収益ですが、会社全体から見るとまだ一部に過ぎない。

投資家から見ると「CISは世界最高の技術だけど、エンタメが主体の会社を半導体株として評価するのは難しい」という状況になっています。

ここで思い出してほしいのが、東芝のメモリ事業から独立したキオクシアや、ウエスタンデジタルから分離したSanDiskの話です。

コングロマリットの中に埋もれていた優れた半導体事業が独立することで、市場から正当な評価を受けられるようになりました。投資家から見ると「純粋な半導体株として評価できる」ということです。

SONYもCIS事業をスピンオフして独立上場し、調達した資金でフィジカルAI向けの技術開発に大胆に投資するという選択肢があるはずです。それができれば、半導体・テクノロジー株として正当に評価されて、株価は大きく変わる可能性があります。

ただ、今の経営陣がそこまで踏み込むかどうかは未知数です。エンタメ資産を手放すのは簡単ではないし、投資家向けの説明も相当必要です。すぐに株価が動くとは言えないのが、正直なところです。

今後の2社の動向に注目

SONYとTSMCという、それぞれの分野で世界No1の技術力を持つ2社が手を組んだ。

半導体エンジニア出身の投資家として、これほどワクワクする企業連携はなかなかありません。具体的にどんな製品が生まれるのか、どの顧客に売るのか、そして資金調達・事業再編にまで踏み込むのか。

答えが出るのにはまだ数年かかると思います。でも、フィジカルAIが本格普及する時代に、この2社が生み出す「目」の技術は世界を変えるかもしれない。

そんな思いで、これからも2社の動向を見守りたいと思います。投資家目線での続報もYouTubeやnoteでお伝えしていきますので、ぜひフォローをよろしくお願いします!

あわせて読みたい

企業分析の一覧へ 投資・テクノロジー解説TOPへ