もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアでは世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
今回のテーマは、中国のNANDフラッシュメモリメーカーYMTC(ワイエムティーシー、長江存儲)です。僕の古巣・キオクシアの直接のライバルになりつつある会社で、正直に言うと、調べれば調べるほど「これはやばい」と唸りました。設立わずか10年でNANDフラッシュの世界シェアはキオクシアに肉薄する13%。しかも技術面では、キオクシアが誇る最新技術と同じ発想の「Xtacking(エクスタッキング)」を先に世に出していたのです。3次元フラッシュメモリを開発していた当事者の目線で、YMTCの技術力と脅威をわかりやすく解説します。
この内容はYouTube動画でも解説していますので、動画派の方はそちらもどうぞ。
YMTC(長江存儲)とは——設立10年でシェア13%の中国NANDメーカー
YMTC(Yangtze Memory Technologies、長江存儲)は、2016年に中国・武漢で設立されたNANDフラッシュメモリ専業のメーカーです。NANDフラッシュは、iPhoneのストレージやSSD、SDカードなどに使われる「データを保存するメモリ」。僕がキオクシアで開発していた、まさにその製品です。
YMTCは中国の国策企業として約240億ドル(2兆円超)という桁外れの投資でスタートし、わずか10年でNANDフラッシュの世界シェア13%(2026年第1四半期・Counterpoint調べ)まで駆け上がってきました。これはマイクロンやサンディスクと同率で、僕の古巣キオクシア(14%)に肉薄する数字です。DRAM側で急成長するCXMT(こちらの記事で解説)と並ぶ、中国メモリ国産化のもう一方の主役です。
メモリ業界の現状——大手がHBMに注力してNANDに「隙間」ができた

まず、なぜYMTCがこんなに伸びられたのか。背景にはメモリ業界の構造変化があります。メモリには大きく、AI向け超高価格のHBM、高価格のDRAM、そして比較的低価格のNANDフラッシュがあります。サムスン・SK hynix・マイクロンの3社は、AIブームで爆発的に儲かるHBMとDRAMに生産能力を振り分け、NANDの生産を相対的に絞ってきました。
その結果、NANDに「隙間」ができた。AIの推論・エージェント化でデータ保存の需要も爆発しているのに、作り手が足りない。この隙間が、NAND専業のキオクシアとYMTCにとって大きなチャンスになっているわけです。実際、NAND価格は今、高騰を続けています。
YMTCの歩み——240億ドル投資、64層から294層まで
YMTCの歩みをまとめると、こうなります。
- 2016年: 約240億ドルの投資で設立
- 2018年: 独自技術「Xtacking」を発表(64層3D NAND)
- 2019年: 64層の3次元フラッシュを開発
- 2022年: 232層の3次元フラッシュを投入
- 2025年: 総数294層の第5世代3次元フラッシュの出荷が確認される
2019年に「YMTCが64層を作った」と聞いたとき、僕はまだキオクシアにいました。正直、信じたくなかった。設立からたった数年で3次元フラッシュを動かしてくるなんて、現場を知る人間ほど「できるわけがない」と思う話だからです。でも実際に動いていて、中国国内でシェアを伸ばしていった。そして2025年初めには、解析会社TechInsightsによって、YMTCの第5世代・総数294層のNANDが出荷されていることが確認されました。ビット密度は約20Gb/mm²と、分析時点のSK hynixの現行品に匹敵し、キオクシア・サンディスク連合の最新品に迫る水準と評価されています。もう「中国だから遅れている」という話ではまったくありません。
驚異の技術「Xtacking」——キオクシアのCBAより先だった
技術面で僕が一番驚いたのが、YMTCの独自技術Xtacking(エクスタッキング)です。ちょっとマニアックですが、ここはぜひ知ってほしいところです。
3次元フラッシュメモリは、データを記憶する「メモリセル部分」と、それを制御する「CMOS回路部分」でできています。従来はこれを同じウェハ(シリコン基板)の上に作っていましたが、Xtackingはメモリ部分と回路部分を別々のウェハで作り、あとから貼り合わせるという技術です。それぞれを最適な条件で作れるので、性能も集積度も上げやすい。言うのは簡単ですが、微細な配線同士をズレなく貼り合わせる接合精度が要求される、超高難度の技術です。
実はキオクシアも、最新世代のBiCS FLASH™でCBA(CMOS directly Bonded to Array)という同じ発想の技術を採用し、2023年に発表しています。ところがYMTCがXtackingを発表したのは2018年のFlash Memory Summit。つまり、この「貼り合わせ」アーキテクチャに関しては、YMTCの方が5年ほど先に世に出していたのです。キオクシアが後から追いかけた格好になっている可能性すらある——古巣を応援する立場としては複雑ですが、技術者として、これは素直にすごいと言うしかありません。
NAND世界シェア13%——キオクシアの14%に肉薄
調査会社Counterpointによると、NANDフラッシュの世界シェア(売上ベース・2026年第1四半期)は、サムスン29%、SK hynix18%、キオクシア14%、そしてYMTC・マイクロン・サンディスクが13%で横並び。YMTCは1年前の8%から一気に5ポイントもシェアを伸ばし、伸び率は主要メーカーの中で最速です。
売上の伸びも凄まじく、2026年第1四半期の売上高は26億ドル(約4,000億円)、前年同期比+445%と報じられています。もうすぐ年間1兆円規模です。キオクシアとサンディスクは同じ工場(四日市・北上)で生産する連合なので、合算シェアは27%とサムスンに迫りますが、単体で見ればYMTCはすでに「4強の一角」に並んだと言っていい状況です。
ちなみにYMTCの製品は現状ほぼ中国国内向けです。中国には14億人の市場があり、シャオミやファーウェイのスマホ、バイトダンスなどのAIサーバー向けと、国内需要だけで十分に事業が回る。ここがYMTCの強さの構造的な理由です。
国家の威信をかけた戦い——製造装置の内製化

YMTCは2022年12月に米商務省のエンティティリストに追加され、米国からの先端製造装置が輸入できません。普通ならここで詰みます。ところがYMTCは中国国内の装置メーカーを育てながら食らいつき、報道によると国産装置だけで構成する製造ラインの構築まで進めており、2026年末までにNANDシェア15%を目指しているとされています。新工場では装置の半分超が国産との報道もあります。

僕は2005年、ソニー時代に中国出張で現地の勢いを肌で感じて、「このままだと日本は負ける」と思いました。それから20年、危惧したとおりの構図になっています。規制で締め付けるほど中国は内製化を加速させ、「中国圏」と「米国・同盟国圏」という2つの半導体経済圏が形成されつつある。かつての冷戦時代のように、技術が2つの系統に分かれて独自進化していく可能性すらあると見ています。
Appleが使いかけた2022年、そして2026年のロビー活動
「中国国内向けだけなら脅威は限定的では?」と思うかもしれません。ところが、そうも言えないのです。
実は2022年、AppleはYMTCの128層NANDをiPhoneに採用する寸前まで行っていました。数ヶ月かけて認証作業を進め、YMTC製は競合より2割ほど安かったと報じられています。しかし2022年10月に米国が対中輸出規制を強化し、議会からの猛反発もあってAppleは採用を断念。YMTCは同年12月にエンティティリスト入りしました。
それから4年。AIによる爆発的なメモリ不足で状況が変わります。DRAMやNANDの価格が高騰し、MacBookやiPadは2〜3割の値上げ、任天堂のゲーム機も値上げという事態に。2026年に入り、Financial Timesなどの報道によると、Appleは米政府に対し、CXMTのDRAMに加えてYMTCのNANDの調達も視野に働きかけを行っているとされています。規制対象への追加でハシゴを外されないよう、政府に「保証」を求めているという報道まであります。
もしこれが認められて、AppleがYMTC製NANDを本格採用したら——中国の大増産分が世界市場に流れ込み、今、最高益に沸くキオクシアやマイクロン、サムスンの収益構造を直撃する可能性があります。個人的にはすんなり承認されるとは思っていませんが、メモリ株を持っている人は必ず頭に入れておくべきリスクです。
YMTCもIPOへ——評価額は最大6兆円超の報道
そしてYMTCも、DRAMのCXMT(上海・科創板に上場)に続いて株式上場の準備を始めました。2026年5月に中国のIPO準備手続き(上場指導)を開始したことが確認されており、CXMTと同じ上海・科創板への上場を準備、評価額は約4兆〜6.5兆円との報道が出ています。
上場すれば市場から巨額の資金を調達でき、増産投資はさらに加速します。中国勢が市場を取りに来るときの怖さは、リチウムイオン電池(かつてはソニーが世界一→BYDなど中国勢が席巻)や液晶パネル(シャープが敗退)で僕たちは既に見てきました。利益度外視の増産で市場価格を壊しにくるのが常套手段で、メモリでも同じことが起こらない保証はありません。
キオクシアへの脅威と投資家目線(個人的見解)
最後に、元キオクシアの人間として、そして投資家としての見立てをまとめます。ここは個人的見解です。
- 技術面: YMTCの技術力は本物で、Xtackingでは世界に先行。294層の出荷でスペック上はほぼ横並び。ただしNANDにはまだEUV(最先端露光装置)が本格導入されていないため中国勢が追いつけている面もあり、今後EUVがNANDに入ってくると再び差が開く可能性はあります。
- 市場面: 当面は中国国内中心。世界市場に本格的に出てくるか(=Apple等が採用するか)が最大の分岐点。出てくれば価格下落圧力、出てこなければ「中国圏」と「それ以外」の棲み分けが続きます。
- 投資面: メモリ各社が営業利益率80%超(マイクロン)という異常な好況は、それ自体が新規参入と増産を呼び込みます。AI需要が少しでも緩んだ瞬間に、中国の増産分が重なってシリコンサイクルが逆回転するリスクを常に頭に入れておくべきです。
脅威、脅威と書いてきましたが、裏を返せば、それだけの相手と競り合っているキオクシアの技術力も世界トップクラスだということです。古巣にはぜひ頑張ってほしいと思っています。
まとめ
DRAM側の刺客・CXMTについては「中国CXMTの実力——DRAM世界シェア8%・上海IPOで最大1.6兆円調達へ」で詳しく解説しています。僕がキオクシアで3次元フラッシュメモリを立ち上げた開発物語とあわせて読むと、YMTCの技術のすごさがより立体的にわかるはずです。


