もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアでは世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
2026年6月、米メモリ大手マイクロン(Micron Technology)の決算が発表されました。結論から言うと、凄まじすぎて「こんな決算あるのか」と驚くレベルでした。3ヶ月の売上が415億ドル(前年同期比+346%)、粗利率84.9%。さらに「メモリはスーパーサイクルに入った」と受け止められる長期契約の発表まで飛び出しました。メモリ株を保有する投資家として、そして元メモリ開発者として、この決算の何がすごいのか、シリコンサイクルは本当に克服されるのかを、わかりやすく解説します。
この内容はYouTube動画でも解説していますので、動画派の方はそちらもどうぞ。
マイクロンの決算が爆益——3ヶ月で売上415億ドル
まず結果から。マイクロンが2026年6月24日に発表した2026年度第3四半期(3〜5月)決算は、売上高415億ドル(約6兆円超)。前四半期から+74%、前年同期比では+346%という、見たことのない数字でした。粗利率は84.9%。「決算書が間違ってるんじゃないか」と突き返したくなるレベルです。
株価も決算後に大きく上昇しました。僕は今年の1月に「マイクロンがめちゃめちゃいい決算を出している」という動画を出しましたが、そこから株価は3倍以上。僕自身も主力銘柄の1つとして保有しており、今回の決算は正直、テンションが上がりました。ただ、浮かれて終わりではなく、「これがいつまで続くのか」を冷静に見ていくのが投資家の仕事。順番に中身を見ていきます。
マイクロンはどんな会社か——DRAM・HBM・NANDを全部作る唯一の米国メーカー

復習です。AIサーバーは、計算するGPU(脳みそ)、作業机にあたるDRAM、データを保存するSSD(NANDフラッシュ)、倉庫のHDDで構成されます。そしてGPUに直結する爆速メモリがHBMです。
ここで押さえたいのがメーカーの分布です。DRAMとHBMを作れるのはサムスン・SK hynix・マイクロンの3社だけ。NANDはそこにキオクシア・サンディスクなどが加わります。つまりマイクロンは、HBM・DRAM・NANDのすべてを作る数少ないメーカーであり、米国企業としては唯一の存在です。AIでメモリが枯渇する今、全部入りのマイクロンに需要が集中するのは必然ですし、米国が国防の観点から「国内でメモリを作れる会社」を重視する流れも追い風になっています。僕がサムスンやSK hynixではなくマイクロンを保有しているのは、米国株として買いやすいことに加えて、この立ち位置の強さが理由です。
HBMとは——DRAMを積み重ねてGPUに直結する爆速メモリ

今回の主役・HBM(High Bandwidth Memory、広帯域メモリ)を簡単に説明します。従来のDRAMは緑の基板の上にチップを並べていましたが、それではデータのやり取りが追いつかない。そこでDRAMチップを何枚も積み重ね、TSVという垂直の貫通配線でつなぎ、GPUのすぐ隣に配置する——これがHBMです。1秒間にiPhone1台分のデータを転送できるレベルの帯域を、低い消費電力で実現します。
HBMが最初に量産段階に入ったのは2014年頃。当時は「高すぎてどこに使うんだ?」という空気で、正直僕もノーマークでした。それがAIの登場で一変。AIの学習・推論はHBMがないと速く回らないため、今や取り合いです。大手3社がHBMとDRAMに生産能力を振り向けた結果、NANDまで含めてすべてのメモリが不足する「空前絶後のメモリ不足」が起きている——これが現在地です。薄く削ったチップを何枚も重ねるHBMは1枚でも不良があると全部ダメになる超高難度製品で、作れる会社が限られることも価格高騰に拍車をかけています。
推論・エージェントAIの台頭でメモリ不足が加速
もう1つのパラダイムシフトが、AIの使われ方の変化です。ChatGPTのような生成AIから、Claude CodeやCodexのような推論・エージェント型AIへ主役が移りつつあります。エージェントAIは過去のやり取りや大量の文脈(コンテキスト)を保持しながら長時間動き続けるため、従来の生成AIとは桁違いのメモリを消費します。
AIの覇権を争うビッグテック各社は、データセンターに100兆円単位の投資を続けています。ところが、GPUというエンジンはあっても、データというガソリンを供給するメモリが足りない。「高くてもいいから今すぐ売ってくれ」という状態です。この構図が、マイクロンの異常な決算の背景にあります。
決算の中身——売上は1年前の4.5倍・粗利率84.9%
数字を整理します(非GAAPベース・会社発表より)。
- 売上高: 415億ドル(前四半期比+74%、前年同期比+346%)。DRAMが313億ドル(76%)、NANDが99億ドル(24%)
- 粗利率: 84.9%(ガイダンスを上回る)。平均販売価格はDRAMが約6割、NANDは8割台半ばの上昇
- EPS(1株利益): 25.11ドル
- 次四半期(6〜8月)ガイダンス: 売上約500億ドル(約8兆円)・粗利率約86%・EPS 31ドル±1ドル
ピンと来ないかもしれないので比較すると、マイクロンの年間売上は2025年度で約374億ドルでした。つまり今回、去年1年分の売上を3ヶ月で超えてしまったのです。しかもガイダンス通りなら次の四半期は売上8兆円・純利益5.7兆円規模。年換算で20兆円規模の利益が視野に入る計算です。営業利益率は80%前後と、メーカーとしては「ぼったくり」に近い異常な水準——それでも買い手が殺到しているのが今のメモリ市場です。
シリコンサイクルとは——メモリ投資家が恐れてきた宿命
「じゃあ買いだ!」となる前に、絶対に知っておくべきなのがシリコンサイクルです。半導体は工場の建設から量産まで時間がかかるため、好況→各社が増産投資→数年後に供給過剰→価格暴落→減産→また不足、という数年周期の激しい波を繰り返してきました。
マイクロン自身、2022年度の約308億ドルから2023年度は約155億ドルへと、売上がほぼ半減した過去があります。キオクシアも2022〜23年には減産に追い込まれました。僕が開発していた頃も、メモリは「作りすぎては値崩れする」商品の代表格。キャベツの豊作貧乏と同じで、豊作なら畑で潰すしかない世界です。だからこそ市場はまだ半信半疑で、マイクロンの株価は好決算後でもガイダンスEPSから単純計算するとPER10倍前後(僕の試算)。AI関連銘柄が数十倍で買われる中、「どうせまた暴落するんでしょ」という織り込みが残っているわけです。
SCA(戦略的顧客合意)——長期契約でシリコンサイクル克服へ

そこで今回の決算で僕が一番注目したのが、SCA(Strategic Customer Agreements、戦略的顧客合意)です。マイクロンは主要顧客と3〜5年の長期供給契約を16件締結したと発表しました。中身がすごい。
- 期間中のDRAM生産量の約20%、NANDの約3分の1をすでに契約で押さえた
- 数量と価格の上限・下限を事前に固定し、顧客には引き取り義務(テイク・オア・ペイ)がある
- 16件のうち14件だけで、最低価格で計算しても約1000億ドル(約16兆円)の売上が確定的に積み上がる
- 顧客から約220億ドル(3兆円超)の預託金(契約履行に応じて返還される保証金・前受け金のようなもの)を受け取る予定
これの意味するところは、「急にやっぱりいらない」ができなくなるということです。過去のシリコンサイクルの暴落は、需要が消えた瞬間に起きました。前受け金までもらう長期契約が業界の主流になれば、あの「売上半減」の谷を浅くできる可能性があります。工場建設に巨額の先行投資が必要な半導体で、リスクの一部を買い手に負担してもらう——長年シリコンサイクルに苦しめられてきたメモリ業界がたどり着いた、なかなか賢い仕組みだと思います。あわせて、次世代のHBM4も前世代(HBM3E)の2倍のスピードで立ち上がっていると発表されており、技術面の不安も今のところ見えません。
キオクシアも「スーパーサイクル」宣言——AI向けSSD戦略に期待
この流れは僕の古巣・キオクシアにも来ています。キオクシアHDのCFOは「スーパーサイクルに入っていくと考えられる」と明言し、2026〜28年度の3年間で約1.4兆円(年平均約4700億円)の設備投資を行う方針を示しました。かつて減産に苦しんだ会社が、強気の増産宣言をするまでになったのです。

技術面でも面白い動きがあります。HBMが足りないなら、SSD側からAIを支えようという戦略です。キオクシアはNVIDIAと協力して、ランダムアクセス性能を従来の約10倍(1,000万IOPS以上)に高めた超高速SSDを開発中で、2026年内のサンプル出荷が報じられています。GPUのメモリ容量を拡張するAI向け「GPシリーズ」SSDも発表済み。さらにその先には、HBMからあふれる文脈データを受け止めるSSDや光インターフェースSSDといった構想も見えてきています。AIサーバーのアーキテクチャにフラッシュメモリが深く食い込めば、キオクシアの付加価値はもう一段跳ねる可能性がある——これは僕の期待込みの個人的見解ですが、ワクワクしながら見ています。
投資家目線での評価とリスク(個人的見解)
最後に投資家としての整理です。ここは完全に個人的見解です。
- 強気材料: 推論・エージェントAI、フィジカルAI(ロボット)、自動運転と、メモリを爆食いする用途はまだ増え続けます。SCAのような長期契約と前受け金は、シリコンサイクルの谷を浅くする構造変化になりえます。PER10倍前後という評価には、まだ上振れ余地があるようにも見えます。
- リスク: 「今回は違う」「これは革命だ」は、ITバブルのときも聞いた言葉です。営業利益率80%は異常値で、いずれ正常化する(50%以下に下がる)可能性は高い。AI投資が少しでも減速すれば、積み上がった増産能力が一気に供給過剰に振れます。さらにCXMTやYMTCなど中国勢の増産という伏兵もいます。
僕自身はマイクロンを保有し続けつつ、「スーパーサイクル」という言葉に浮かれず、決算ごとに需要の持続性と中国リスクをチェックしていくつもりです。
まとめ
メモリ業界を脅かす中国勢については、中国CXMTの実力(DRAM編)と中国YMTCのNAND技術力(NAND編)で詳しく解説しています。僕がキオクシアで3次元フラッシュメモリを立ち上げた開発物語もあわせてどうぞ。


