もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、NOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
そして実は僕、研究開発者だった頃にアドバンテストのテスターを実際に使っていました。テスターで半導体を測定して、その結果を分析するのが仕事のひとつだったんです。今回はそのアドバンテストが、2026年7月29日に四半期ベースで過去最高の決算と大幅な上方修正を発表し、翌日に株価が一時16%超も急騰しました。テスターを使っていた元研究開発者はかなりレアだと思うので、「そもそも半導体のテストとは何か」から決算資料の中身まで、投資家目線で詳しく解説します。
よくある質問
アドバンテストの2026年7月発表の決算はどんな内容でしたか?
2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算で、売上高3,675億円(前年同期比39.3%増)・営業利益1,900億円(同53.3%増)・四半期純利益1,748億円(同93.8%増)と、いずれも四半期ベースの過去最高でした。営業利益率は51.7%に達し、発表翌日の株価は一時16.7%高まで急騰しました。
なぜAI半導体の需要拡大でアドバンテストが儲かるのですか?
AI半導体はGPUとHBMを1つのパッケージに実装する3次元構造になり、テストが爆発的に複雑化しているためです。テストが複雑になるとハイエンドテスターの単価が上がり、テスト時間が延びる分必要な台数も増えるため、単価と台数の両方でテスター需要が拡大します。
通期の業績予想はどれくらい上方修正されましたか?
売上高は従来予想の1兆4,200億円から1兆7,140億円(前期比51.9%増)へ、営業利益は6,275億円から8,460億円(同69.5%増)へ、当期利益は6,600億円(同75.8%増)へ大幅に上方修正されました。
半導体テスターとは何をする装置ですか?
半導体チップに電気を流し、期待どおりの応答が返ってくるかを検査する装置です。配線の断線を調べるOpenテスト、隣の配線との短絡を調べるShortテスト、データを入れて正しい結果が出るかを見る機能テストなどを行い、不良品の出荷を防ぎます。
アドバンテストのリスクは何ですか?
売上の約半分が台湾(TSMC)向けに集中し、AI需要への依存度が高いことです。台湾有事やAI需要の減速が起きれば影響を直接受けるほか、売上のほとんどが海外のため円高も逆風になります。
アドバンテストの決算ハイライト——売上39%増・営業利益率51.7%の爆益
まず結論から。アドバンテストが2026年7月29日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)決算は、売上高3,675億円(前年同期比39.3%増)・営業利益1,900億円(同53.3%増)・四半期純利益1,748億円(同93.8%増)で、売上・営業利益・純利益のすべてが四半期ベースの過去最高。しかも同時に、通期予想の大幅な上方修正まで発表しました。
市場の反応は強烈で、発表翌日の7月30日には株価が一時16.7%高まで買われ、この1銘柄だけで日経平均を約700円分押し上げました。まさに「文句なし」の決算だったわけです。

特に注目してほしいのが営業利益率51.7%という数字です。製造業で営業利益率50%超えは、ちょっと異常な水準なんですよね。しかも売上が伸びながら利益率も上がるという、利益に対して二重に効いてくる状態になっています。

長期チャートを見ると、この10年ほどで凄まじい上昇を遂げています。僕がテスターを使っていた15〜16年前のアドバンテストは、時価総額数千億円くらいの「普通の会社」でした。当時、テスター大手のVerigy(ベリジー)をアドバンテストが買収したのですが、僕はそのVerigyのテスターも使っていたんですよね。それが今や時価総額23兆円規模。日本を代表する企業になってしまいました。感慨深いです。
では、なぜここまで儲かるのか。それを理解するには「半導体のテストとは何か」を知る必要があります。
半導体のテストとテスターとは何か——実際に使っていた頃の話

半導体は、シリコンウェハーの上に回路を焼き付けて、その一区画を切り出してチップにします。このとき「ちゃんと動くものが作れているか」を検査するのがテスト工程です。大きく2段階あります。
- ウェハーテスト——ウェハーの状態で、プローブカードという針を当てて電気を流し、良品・不良品を選別する(この選別工程をダイソートと呼びます)。良かったチップだけを実装に回す
- パッケージ後のテスト——実装後は安定してテストできるので、ここでフルスペックの本格的なテストをする
もしテストができていないと、不良品をそのまま出荷することになります。iPhoneが急に動かなくなったり、サーバーが落ちたりしたら大問題ですよね。一方で、テストはすればするほど良い製品になるわけではなく、純粋にコストになります。かといって手を抜くと大事故になる。この匙加減が非常に難しい世界なんです。

このテストを行う装置がテスター(テストシステム)です。テスター本体からケーブルでプローバやハンドラと呼ばれる装置につなぎ、チップに電気を流して、期待どおりの応答が返ってくるかを見る。テスターにはプログラミング環境があって、どんな信号をどんな順番で流すかをプログラムして検査します。僕もVerigyのテスターのプログラミングを少しやりましたが、プログラムがめちゃめちゃ苦手なので苦戦した記憶しかないですね……。
研究開発者だった頃は、工場のテストセンターに行って、量産用テスターの空き時間を借りてReRAM(抵抗変化型メモリ)のテストをしたりしていました。僕はテスターそのものの専門家ではなく、テストで出てきた結果を分析する側でしたが、日常的にテスターを使っていた。だからこそ、この会社の凄さが現場感覚でわかるんです。
どんなテストをするのか——Openテスト・Shortテスト・機能テスト

では具体的にどんなテストをするのか。ごく簡易的なイメージで説明すると、基本は次の3つです。
- Openテスト——配線の両端に電気をかけて、「ちゃんとつながっているか(切れていないか)」を確認する
- Shortテスト——櫛形に入り組んだ隣どうしの配線に電気をかけて、「くっついていないか(ショートしていないか)」を確認する
- 機能テスト——CPUやメモリにデータを入れて、期待どおりの結果が出てくるかを確認する。メモリにアクセスできるか、データを保存できるか、などをすべて電気的に見る
要するに「電気を入れて、正しい応答が返ってくるかを見る」のがテストです。ということは——チップが複雑になればなるほど、テストも複雑になる。テスト時間は延び、テスターに要求される性能も上がり、必要な台数も増えていく。ここが今回の決算を読み解くいちばん大事なポイントです。
AI半導体の3次元化でテストが爆発的に難しくなっている

そして今、AIによって半導体の世界は3次元化という大きな変化の真っ只中にいます。上の図はTSMCの先端パッケージ技術「CoWoS-L」の断面図です。これまではSoC(システム・オン・チップ)単体をテストすればよかったのですが、今のAI半導体は、GPUとHBM(広帯域メモリ)を1つのパッケージに載せて、インターポーザー(チップどうしをつなぐ中継基板)で接続する構造になっています。
そうなると、GPU単体・HBM単体のテストに加えて、組み合わせた状態で全体がちゃんと動くかまでテストしなければなりません。GPUとHBMの間でデータを送受信するタイミングは大丈夫か、超大電力を流せるか——テストの項目も難易度も跳ね上がります。

NVIDIAの次世代GPU「Rubin」を見ると、巨大なGPUの周囲にHBMがずらりと並んでいます。1個36GBのHBMを8個、合計288GB。トランジスタ数は3,360億個です。パッケージ全体で見ればトランジスタ1兆個の世界が視野に入りつつあるわけで、その膨大な素子が全部ちゃんと動くかを有限の時間で確認するのは、原理的にもう全数チェック不可能。いかに効率よく「大丈夫」を保証するかのノウハウ勝負になっています。
僕がやっていた頃も、BIST(ビルトイン・セルフテスト)といって、チップの中にテスト回路をあらかじめ組み込んでおき、テスターから「自己テストせよ」と信号を送ると内部で勝手にテストして結果だけ返してくる、という効率化技術を使っていました。15年前でそれです。今は当時と比べて天文学的に難しくなっているはずです。
ここまでを整理すると、こうなります。
- AI半導体は3次元化・巨大化で、テストがどんどん複雑になる
- テストが複雑になると、テスター1台あたりの性能要求が上がり、テスターの単価が上がる
- テスト時間が延びると、同じ生産量をさばくのにテスターの台数がもっと必要になる
- 1個数百万円クラスとも言われるAIチップを不良のまま出荷したら大損害。サーバーで学習中に壊れても大問題。だからテストを省くこともできない
つまりAI半導体が売れれば売れるほど、単価×台数の両方でテスター需要が膨らむ。これがアドバンテスト爆益の構造です。
決算の中身①——AI向けSoCテスターの売上が爆発

ここから決算資料の中身です。決算説明資料では売上が大きく「テストシステム」と「サービス他」に分けて示されており、主力のテストシステムの内訳を見ると、SoC向けテスターの売上が突出して伸びています。Q1のテストシステム売上3,336億円のうち、SoCテストシステムが2,596億円と大半を占めます。
SoCはシステム・オン・チップの略で、ここではNVIDIAのGPUのような「AI向けの演算半導体」のイメージで捉えてもらえばOKです。昔はCPUの中にDRAMを一緒に作り込む混載チップもあった(僕もその時代を知っています)のですが、今はプロセスが違いすぎて同居できないので、さっきのCoWoSのように別々に作ったチップをパッケージで合体させる方向に進化しています。一方でメモリ向けテスターやその他はそこまで伸びておらず、この決算は本当に「AI様さまの決算」ということがセグメント構成からはっきり読み取れます。
決算の中身②——台湾(TSMC)向けが急増。中国が韓国並みに

次に地域別(出荷先ベース)の売上です。一目瞭然で、台湾向けが急増していて、Q1売上3,675億円のうち1,786億円と約半分を占めています。台湾といえばTSMC。NVIDIAやAppleなど世界中のAI半導体を製造する、シェア約7割の巨大ファウンドリです。AI半導体を作っているのがTSMCなので、そのテスターが台湾に集中して売れている、という素直な構図ですね。
面白いポイントが2つあります。1つは日本向けがグラフでほぼ見えないレベルだということ。アドバンテストは日本企業ですが、売上のほとんどが海外です。国内の半導体製造がいかに縮小したかを突きつけられる数字でもあります。
もう1つは中国向けが韓国向けとほぼ同水準だということ。韓国にはサムスンとSK hynixという2大メモリメーカーがあり、そこと同じくらいの金額のテスターを中国勢(SMICやYMTCなどの製造各社と推測されます)が買っている。正直、僕は中国がここまでテスターを買っているとは思っていなかったので、これは驚きました。テスターの購入量は将来の半導体生産能力の先行指標でもあるので、中国の半導体製造が着実に力をつけていることを示すデータとして、頭に入れておく価値があると思います。
営業利益率が22%→51%へ改善した理由(考察)

推移で見ると、営業利益率は2024年度Q1の22.6%から、わずか2年で51.7%まで一貫して上がってきています。売上も伸びて利益率も上がる、理想的な決算です。
なぜここまで利益率が上がるのか。ここからは僕の推測ですが、テスターにはシンプルなものからフルスペックのハイエンドまで幅広いラインナップがあります。何チャンネルの信号を扱えるか、電流・電圧をどれだけ精度よく流せるか——AI向けの複雑なテストには当然ハイエンド機が必要で、高付加価値なハイエンドテスターの構成比が上がった結果、利益率が跳ね上がっているのではないかと見ています。AI向けの複雑なテスター、利益率高いはずなんですよね。
大きな投資に踏み切った——キャッシュフローから見える先行投資

キャッシュフローで1つ目を引いたのが、今四半期に投資を大きく積み増し、フリーキャッシュフローがマイナスに転じていることです。これだけ稼いだ資金を、ほぼそのまま投資にぶっ込み始めた形です。
これも推測ですが、意味するところはシンプルで、「この先テスターが足りなくなる」と会社が見ているということだと思います。AI半導体がもっと作られるなら、テスターも自動的にもっと必要になる。需要の予兆を見て、今のうちからアクセルを全開に踏んだ。もし需要が消えたら反動も大きい諸刃の剣ですが、AI業界全体にとっては強気のシグナルと読めます。財政状態も親会社所有者帰属持分比率68.8%と強固で、攻めの投資をする体力は十分です。
通期予想を大幅上方修正——売上1.7兆円・前年比51.9%増へ

そして今回のハイライト、通期予想の大幅上方修正です。数字を並べます。
- 売上高: 従来予想1兆4,200億円 → 1兆7,140億円(前期実績1兆1,286億円から51.9%増)
- 営業利益: 従来予想6,275億円 → 8,460億円(前期比69.5%増)
- 当期利益: 6,600億円(前期比75.8%増)
1Qの時点でここまで大きく通期を引き上げてくるのは、相当な自信の表れです。会社側は、推論(インファレンス)用途を中心としたAI関連需要の拡大で、カスタムAI半導体(ASIC)やSoC・CPU・DRAM向けテスターの需要が4月時点の想定を大幅に上回る見込みだと説明しています。特に下期に急激に伸びる計画になっていて、Rubinのような次世代AI半導体の立ち上がりでテストがさらに複雑になることを織り込んでいるのだろうと推測します。もちろん「先端パッケージングやメモリ半導体の供給動向など外部変動要因はある」とリスクにも言及していますが、それを踏まえても強烈なガイダンスです。
キオクシアとの比較——爆益どうしを並べてみると面白い
ここで、直前に決算を発表した古巣キオクシアと並べてみます。キオクシアもAI向けメモリ需要で凄まじい決算を出したばかりです(詳しくは前回のキオクシア決算解説もどうぞ)。
| アドバンテスト | キオクシア | |
|---|---|---|
| 売上 | 1.7兆円(通期予想) | 約4.2兆円(上期=6ヶ月) |
| 営業利益 | 0.85兆円(通期予想) | 約3.2兆円(上期=6ヶ月) |
| 時価総額 | 約23兆円 | 約27兆円 |
キオクシアの数字はQ1実績(売上1兆7,671億円・営業利益約1.3兆円)とQ2会社計画(売上2兆3,900億円・営業利益1兆8,900億円)を合わせた上期6ヶ月ベースです。半年でアドバンテストの通期を大きく超える利益を出す見込みなのに、時価総額はアドバンテストとそれほど変わらない。単純比較していいものかはわかりませんが、市場が「キオクシアのこの利益は続かない」と見ているのか、それとも異常に安く放置されているのか——こう並べてみると考えさせられますよね。
一方のアドバンテストも、通期予想ベースで見れば決して割安ではない水準まで買われています。ただ、この成長力とテスト工程の重要性の高まりを考えれば、おかしな評価ではないというのが個人的な印象です。
投資家としての評価とリスク——AI頼み・TSMC頼みの構造
最後に、投資家としての評価を整理します(個人的見解です)。
ポジティブな点は明確です。売上と営業利益率が両方伸びる理想的な決算で、しかも今回、投資の面でも一段ギアを上げてきた。テストは半導体製造に不可欠な工程で、テスターがなければそもそも出荷できない。あまり日の目を浴びない地味な領域ですが、AI半導体が複雑になるほど需要が伸びる、構造的に強いポジションです。
一方でリスクも構造的です。今回の決算はほぼAI需要頼み・台湾(TSMC)頼みで、売上の約半分が台湾向けに集中しています。もし台湾有事が起きれば、アドバンテストだけでなくTSMCもNVIDIAもキオクシアも、AI産業全体が吹き飛ぶ話ではありますが、地域集中度が高い分、影響は直撃します。また売上のほとんどが海外なので円高も逆風になります。そしてAI需要そのものが減速すれば、積み増した投資が重荷に変わる。まさに「AIと一蓮托生」の銘柄だと思って見るべきでしょう。
まとめ
テスターは半導体産業の裏方ですが、実際に使っていた身からすると「これがないと何も出荷できない」大黒柱です。その裏方がAIブームの主役級に躍り出たのが今回の決算でした。半導体×投資の関連記事として、マイクロンの爆益決算とメモリのスーパーサイクルや第二のNVIDIAを探す記事、僕がキオクシアで3次元フラッシュメモリを立ち上げた開発物語もあわせてどうぞ。


