キオクシアの光SSDとは?PCIeをそのまま光に変える技術のすごさを元キオクシア研究開発者がわかりやすく解説

もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。

キオクシアのAI向け新製品ラッシュ(CM10GP1)を解説してきましたが、今回はその先にある「未来枠」の話です。キオクシアが京セラ・アイオーコアと開発を進めている「広帯域光SSD」——SSDとサーバーを電気配線ではなく光ファイバーでつなぐ技術。しかもすごいのが、PCIeという標準規格の信号を、プロトコル変換なしでそのまま光に載せてしまうところなんです。この記事では、キオクシアの一次情報をもとに、なぜSSDを光でつなぐのか、何がすごいのかを基礎からわかりやすく解説します。

よくある質問
キオクシアの光SSD(広帯域光SSD)とは何ですか?

サーバーとの接続を電気配線ではなく光ファイバーにしたSSDです。キオクシア(SSD本体)・アイオーコア(光トランシーバーIOCore)・京セラ(光電気集積モジュールOPTINITY)の3社が開発し、2025年4月8日にPCIe 5.0(32GT/s×4レーン)での動作確認を発表しました。NEDOの次世代グリーンデータセンター技術開発事業の一環です。

光SSDの何がすごいのですか?

PCIeの信号をプロトコル変換なしでそのまま光に載せる点です。SSDとサーバーの間の光電変換ブリッジボードが電気と光を変換するだけなので、サーバーからは普通のPCIe接続のSSDに見え、OS・ドライバ・アプリは一切変更不要。性能・機能・操作性はそのままに、cm単位だった接続距離を40m以上に延ばせます。

なぜSSDを光でつなぐ必要があるのですか?

電気配線は信号を速くするほど減衰が激しくなり、届く距離が縮むためです。PCIe 7.0(128GT/s)の世代になると銅線での引き回しは極めて難しくなり、キオクシアはこの世代から光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があると予測しています。また、発熱の大きいCPU/GPUと発熱の少ないSSDを分離して冷却を最適化できる利点もあります。

光SSDでデータセンターはどう変わりますか?

CPU/GPUは液冷完備の専用ルームに、SSD群は最小限の冷却で済む別室に分離するといった、熱に合わせた自由な設計が可能になります。部屋ごとに最適な冷却を選べるため冷却電力を削減でき、プロジェクト全体では2030年までに開始時点のデータセンター比で40%以上の省エネを目標にしています。

光SSDはいつ実用化されますか?

現在は試作機と実証試験(PoC)の段階で、製品化・量産の時期は公表されていません。NEDOプロジェクトは2026年4月に研究フェーズから社会実装フェーズへ移行しており、3社は社会実装に向けたPoCへの適用を目指すとしています。

キオクシアの「広帯域光SSD」とは何か

キオクシアの広帯域光SSD試作機。エンタープライズSSDに光電変換ブリッジボードが接続された基板の写真
広帯域光SSDの試作機。左がエンタープライズSSD本体、右側の基板が光電変換ブリッジボード(出典: キオクシア プレスリリース 2025年4月8日より引用)

広帯域光SSDは、ひとことで言うと「サーバーとの接続を光ファイバーにしたSSD」です。キオクシアが、光トランシーバーのアイオーコア、光電気集積モジュールの京セラと3社で開発を進めているもので、2025年4月8日にはPCIe® 5.0(32GT/s×4レーン)での動作確認に成功したと発表されました。2024年8月発表のPCIe 4.0対応の前世代試作機から、わずか8ヶ月で帯域を2倍にしてきた計算です。

この開発は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築/次世代グリーンデータセンター技術開発」の一環です。プロジェクト全体の目標は、2030年までに、プロジェクト開始時点のデータセンターと比べて消費電力を40%以上削減すること。つまりこれは一企業の思いつきではなく、国を挙げた次世代データセンター計画の中で「ストレージの光化」を担っているのがキオクシア、という位置づけなんです。

僕がキオクシアの新製品発表を解説した動画でも「光SSDはいつか出てくると期待している」と触れたのですが、調べてみると想像以上に進んでいました。順番に見ていきましょう。

なぜSSDを光でつなぐのか——電気配線の限界

今のデータセンターでは、SSDとサーバーはPCIeという規格の電気配線(銅線)でつながっています。ところが、この電気配線には物理的な限界が近づいています。

  • 距離の限界——PCIeの電気信号は速くなるほど減衰が激しくなり、実用的には数十cm単位しか飛ばせません。だからSSDはサーバー筐体の中、CPUのすぐ近くに詰め込むしかない。
  • 発熱と冷却のムダ——その結果、灼熱のCPU/GPUと、そこまで熱くないSSDが同じ箱に同居することになります。部屋全体を一番熱い部品に合わせて冷やすので、SSDは「冷やしすぎ」の状態。冷却電力がムダに膨らみます。
  • ケーブルの取り回し——高速の電気配線は太くて硬く、本数も膨大。配線だらけでエアフローも悪くなります。
電気接続方式と光接続方式の比較図。電気はcm単位の距離しか届かないが、光ファイバーなら約100mまで性能・機能・操作性そのままで接続できる
電気接続はcm単位、光接続なら〜100m。性能・機能・操作性は同じまま距離だけが伸びる(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

光ファイバーなら、この3つが一気に解決します。光は長距離を走っても信号がほぼ劣化せず、ケーブルは細くて柔らかく、電磁ノイズの影響も受けません。「速さはそのまま、距離の制約だけを外す」——これが光化の本質です。

電気接続方式と光接続方式のコネクター・ケーブル比較写真。電気接続の太くて硬いコネクターと配線に対し、光接続は細く柔らかいファイバーケーブルで済む
コネクターとケーブルの実物比較。太くて硬い電気配線(左)に対し、光ファイバー(右)は細く柔らかく、配線の取り回しとエアフローが劇的に改善する(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

「PCIeをそのまま光化」のすごさ——プロトコル変換なしの意味

「光で通信するストレージなんて、前からあるのでは?」と思う方もいるはずです。たしかに、ネットワーク経由のストレージ(SANやNASなど)は昔から光ファイバーを使っています。でも、あれはいったんネットワークのプロトコルに変換して通信する方式。変換のたびに遅延が積み重なり、SSD本来の速度は出ません。

キオクシアの広帯域光SSDが決定的に違うのは、PCIeの信号を、プロトコル変換なしで、そのまま光に載せていることです。仕組みとしては、SSDとサーバーの間に「光電変換ブリッジボード」を挟み、電気のPCIe信号を光に変えてファイバーで飛ばし、向こう側でまた電気に戻す。サーバーから見れば、普通のPCIe接続のSSDにしか見えません

広帯域光SSD試作機の構成図。キオクシアのエンタープライズSSDにU.2コネクター経由で光電変換ブリッジボードがつながり、光電変換モジュールから光コネクターで光ファイバーに出る
試作機の構成。SSDはそのままに、光電変換ブリッジボードがPCIe信号を光に変換する(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

これの何がすごいかというと、既存の資産を全部そのまま使えることなんです。OSもドライバもアプリも、NVMeというSSDの標準の仕組みも、一切変更なし。「性能・機能・操作性は同じ」とキオクシアが説明しているとおり、ソフトウェアからは光か電気かの区別すらつかない。特別なソフトもハードも不要で、データセンターの設計だけが自由になる。標準規格の上にきれいに乗っかる技術こそ普及するというのは半導体の歴史の鉄則で、これはその王道を行く設計です。

40m離しても性能そのまま——データセンターの設計が変わる

キオクシアは実証として、40mの光ファイバーで接続した光SSDが、性能への影響をほぼ受けずに動作することを確認しています。数十cmが限界だった世界から、一気に40m。キオクシアのエンジニアは公式の技術記事で、光なら数十メートルから数百メートルまで延伸可能と説明しており、100m級の接続も視野に入ります。

40m実証デモの構成図。サーバー(ホスト)から光電変換ブリッジボードでPCIe信号を光に変換し、40mの光ファイバーケーブルを経由して、SSD側のブリッジボードで電気に戻してキオクシアのエンタープライズSSDに接続している
40m実証デモの構成。サーバーとSSDの間を光電変換ブリッジボードで挟み、40mの光ファイバーを通しても電気直結と同等の性能で動作した(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

「SSDが遠くに置けて何が嬉しいの?」——ここがこの技術の本丸です。答えは、データセンターの間取りを、熱に合わせて根本から設計し直せることです。

広帯域光SSDによるデータセンター構成の変化。従来は超高温のマシンルームに全機器が同居していたが、CPU/GPU専用施設(液冷などで冷却)とSSD格納施設(最小限の冷却)に分離できる
光化で「CPU/GPU専用の部屋」と「SSD格納の部屋」を分離し、それぞれ適温で冷やせるようになる(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

灼熱のCPU/GPUは液冷完備の専用ルームへ。発熱の少ないSSD群は、最小限の冷却で済む別室にまとめて格納。部屋ごとに「ちょうどいい冷やし方」を選べるので、冷却の電力を大幅に削れるわけです。AIデータセンターの電力問題は、CM10の記事で書いたとおりSSDまで液冷になるほど深刻ですから、「そもそも熱源とストレージを分離する」というアプローチは理にかなっています。故障したSSDの交換だって、灼熱のサーバールームに入らず、ストレージ室でまとめて作業できるようになる。運用面のメリットも大きいんです。

PCIe 5.0対応試作機の中身——キオクシア・アイオーコア・京セラの3社連合

2025年4月に動作確認された試作機は、日本企業3社の技術の合わせ技です。

  • キオクシア——広帯域光SSD本体(エンタープライズSSDがベース)と全体設計
  • アイオーコア——光トランシーバー「IOCore®」。電気信号と光信号を変換する心臓部
  • 京セラ——光電気集積モジュール「OPTINITY®」。光部品を基板に高密度実装する技術

試作機はPCIe 5.0(32GT/s×4レーン)で動作し、前世代のPCIe 4.0試作機から帯域2倍を達成。3社は今後、社会実装に向けた実証試験(PoC)への適用を目指すとしています。NEDOプロジェクトとしても2026年4月に研究フェーズから社会実装フェーズへ移っており、「研究室のデモ」から「データセンターで使う技術」への橋を渡り始めたところです。

ちなみに光トランシーバーや光電気集積は、日本の部品メーカーが強みを持つ領域です。フラッシュメモリのキオクシアと光部品の京セラ・アイオーコアという日本連合で、次世代データセンターの標準の一角を取りにいく——この構図自体もなかなか熱いものがあります。

PCIeの進化と光化の流れ——PCIe 7.0時代の標準を狙う

PCIeは世代ごとに速度が2倍になる規格で、4.0の16GT/sから、5.0で32GT/s、6.0で64GT/s、7.0では128GT/sへと進みます。CM10GP1が対応したPCIe 6.0が今まさに立ち上がりつつある世代です。

PCIeの世代ごとの速度推移グラフ。PCIe 4.0の16GT/sから7.0の128GT/s、その先の256GT/sへ。PCIe 7.0あたりから光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があると示されている
PCIeの速度は世代ごとに倍増。キオクシアはPCIe 7.0あたりから光接続の積極導入が始まると予測している(出典: キオクシア公式サイトの技術解説より引用)

ここで効いてくるのが物理の壁です。電気信号は速くするほど減衰が激しくなり、飛ばせる距離がどんどん縮む。PCIe 7.0の128GT/sともなると、銅線で引き回せる距離は本当にわずかで、業界でも「この先は光にせざるを得ない」という議論が本格化しています。キオクシアも、PCIe 7.0あたりから光接続方式の積極的な導入が始まる可能性があるという見立てを示しています。

つまり広帯域光SSDは「変わり種の実験」ではなく、PCIeの進化の先で必ず来る「光化の時代」を先回りする研究開発なんです。標準規格(PCIe)にそのまま乗る設計にしてあるのも、その時代が来たときに主導権を握るための布石だと僕は見ています。

投資家目線——省エネ40%目標と「未来枠」の価値(個人的見解)

最後に投資家目線の話を。ここからは僕の個人的見解です。

まず正直なところから言うと、広帯域光SSDは今すぐ売上になる話ではありません。まだ試作機とPoC(実証試験)の段階で、製品化・量産の時期も公表されていません。CM10GP1が「これから1〜2年の主力」だとすれば、光SSDはその次の世代を取りにいく「未来枠」です。

ただ、この未来枠には2つの意味で価値があると思っています。1つは、AIデータセンターの最大の制約が「電力」になったこと。国の目標である省エネ40%が実現すれば、そのインパクトは莫大で、光化はその主要な打ち手の1つです。もう1つは、PCIeの光化がほぼ不可避の流れであること。電気の物理限界は交渉の余地がないので、時期の早い遅いはあれど、いずれ業界全体が光に向かいます。そのときに「PCIe標準のまま光化する」ノウハウと実績を持っているかどうかは、大きな差になるはずです。

リスクも書いておくと、光部品はまだ高価で、コストが下がらなければ採用は限定的にとどまります。また、光化の主戦場はまずGPU間の接続(こちらはNVIDIAなどが猛烈に開発中)で、ストレージの光化がどの順番で来るかは不確実です。それでも、「フラッシュメモリの会社」が「データセンターの間取りを変える技術」まで手を伸ばしているのは、キオクシアの技術の懐の深さを示す動きとして、素直に評価したいところです。

まとめ

僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。

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