もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
2026年8月3日(米国時間)、SK hynixとサンディスクが「HBF™(High Bandwidth Flash・高帯域フラッシュ)」の最初の標準仕様を公開しました。NANDフラッシュをHBMのように積み上げて、GPUのすぐ隣——HBMと同じ場所——に載せてしまおうという規格です。フラッシュメモリ畑の僕からすると「ついにNANDがそこまで来たか」という、メモリの歴史が動く発表なんですよね。この記事では、HBFとは何か、なぜHBMだけでは足りないのか、CoWoSのような先端パッケージとの関係まで、基礎からわかりやすく解説します。
よくある質問
HBF(High Bandwidth Flash)とは何ですか?
NANDフラッシュのダイをHBMのように積層し、高速インターフェースで束ねた新しいメモリです。サンディスクが開発を発表し、SK hynixとともに標準化を進め、2026年8月3日に最初の技術仕様がOCP(Open Compute Project)を通じてオープン標準として公開されました。AI推論の読み出し中心の使い方に的を絞り、読み出し帯域に特化した設計です。
HBFとHBMの違いは何ですか?
HBMはDRAMを積層した超高速メモリで、容量が小さく高価で、電源を切るとデータが消えます。HBFはNANDを積層することで、HBMと同等の帯域・同等のコストを狙いながら容量を8〜16倍にでき、不揮発でリフレッシュ電力も不要です(サンディスクの目標値)。計算中のデータはHBM、AIモデルの重みなど読み出し中心のデータはHBFという役割分担が想定されています。
HBFの標準仕様のスペックはどれくらいですか?
最初のOCP標準仕様では、1スタック最大512GB(NANDダイの8段または16段積み)、帯域は3グレードで約0.4〜3.0TB/s、チップレット相互接続のオープン標準UCIeをサポートします。サンディスクの第1世代品は読み出し帯域1.6TB/s・256Gbダイ×16段で512GBを掲げています。
HBFはCoWoSなどのパッケージにHBMと一緒に載せられますか?
サンディスクによれば、第1世代HBFはHBM4と実装面積・電力プロファイル・スタック高さをほぼ一致させており、シリコンインターポーザー上でHBMが座る席に置き換えで搭載できる設計です。同社資料では、HBM×8個=192GBの構成に対し、HBM2個+HBF6個の混載で3,120GB、8個すべてHBFなら4,096GBになると示されています。
HBFはいつ製品化されますか?
サンディスクは2026年後半に最初のHBFサンプルを出荷し、2027年前半にHBFを搭載したAI推論デバイスのサンプルが登場する見込みとしています。ただし、どのGPUやアクセラレータが採用するかは2026年8月時点でまだ発表されていません。
HBF(High Bandwidth Flash)とは何か——NANDをHBMのように積む

HBFは「High Bandwidth Flash(高帯域フラッシュ)」の略で、ひとことで言うとNANDフラッシュのチップを何枚も積み重ねて、HBMのような高速インターフェースで束ねた新しいメモリです。もともとサンディスクが2025年に発表した構想で、同年8月にSK hynixと標準化に向けたMOU(覚書)を締結。2026年2月から標準化の作業が始まり、わずか半年後の2026年8月3日、最初の技術仕様がOCP(Open Compute Project)を通じてオープン標準として公開されました。標準化にはGoogleやTenstorrentもメンバーとして参加しています。
構造のイメージは、AIサーバーの主役メモリであるHBMとほぼ同じです。HBMはDRAMのチップを積み重ねてTSV(チップを貫通する縦の配線)でつなぎ、超広い「並列の出入口」で帯域を稼ぎます。HBFはこの「積んで束ねる」やり方を、DRAMではなくNANDフラッシュでやる。NANDはDRAMより1枚あたりの容量がケタ違いに大きいので、同じように積むと、とんでもない容量のメモリができあがるわけです。

ここで「あれ?」と思った方は鋭いです。NANDはランダムアクセスが遅い、書き込みも遅い——キオクシアGP1の記事で解説したとおり、フラッシュには構造的な弱点があります。HBFはそれを踏まえたうえで、AI推論の「読み出し中心」の使い方に的を絞り、読み出し帯域に全振りした設計になっています。AIがモデルの重みやKVキャッシュ(会話の記憶)を読む作業は、まさに大量読み出しのかたまり。そこにNANDの大容量をぶつける、という発想です。
なぜHBFが必要なのか——HBMの「容量・コスト・電力」の壁
「HBMをもっと積めばいいのでは?」という疑問には、NVIDIA CMXの記事でも書いたとおり明確な答えがあります。HBMはもう物理的にもコスト的にも簡単には増やせないんです。
- 容量の壁——DRAMは微細化が限界に近づいており、1チップの容量を増やすのが年々難しくなっています。NVIDIAの次世代GPU「Rubin」でもHBM4は最大288GB。AIモデルの巨大化に全然追いつきません。
- コストの壁——HBMはベラボウに高価です。AIサーバーの原価の相当部分をHBMが占めると言われるほどで、「メモリを増やしたいけど値段が…」がAI業界共通の悩みです。
- 電力の壁——DRAMは電源を入れているだけで、データを保持するためのリフレッシュ(再書き込み)に電力を食い続けます。NANDは不揮発なのでリフレッシュ不要。ここは意外と大きな差です。
サンディスクはHBFについて、「HBMと同等の帯域・同等のコストで、容量は8〜16倍」を目標に掲げています。さらに同社のシミュレーションでは、容量無制限のHBMという理想のメモリと比べても性能差は2.2%以内に収まるとしています。読み出し中心のAI推論なら、NANDでもHBMにほぼ肉薄できる——この試算が本当なら、AIサーバーのメモリ構成の常識が変わります。
HBF標準仕様の中身——最大512GB・最大3.0TB/s・UCIe対応
今回OCPで公開された最初の標準仕様と、サンディスクが公表している第1世代製品のスペックを整理します。
- 容量は1スタック最大512GB——NANDダイを8段または16段積み。256Gb(32GB)のダイを16段積むと512GBです。HBM1個(現行のHBM3E世代で最大36GB程度)の10倍以上ですね。
- 帯域は3グレードで約0.4〜3.0TB/s——用途に応じて速度クラスを選べる設計。サンディスクの第1世代品は読み出し1.6TB/sを掲げています。
- UCIe対応——UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)は、チップレット同士を高速につなぐオープン標準規格。これに対応することで、特定のGPU専用ではなく、いろいろなCPU・GPU・アクセラレータと組み合わせられる汎用部品になります。
- HBM4と物理的に揃えた設計——サンディスクによれば、第1世代HBFはHBM4と実装面積・電力プロファイル・スタックの高さをほぼ一致させています。この意味は次の章で。
仕様をオープン標準として公開したことも重要なポイントです。囲い込みではなく、誰でも採用・実装できる規格にすることで、業界全体を巻き込んでエコシステムを作りにいっている。HBMがJEDEC標準として普及した歴史をなぞる動きだと僕は見ています。
HBMと同じ場所に載る——CoWoSパッケージとチップレットの話
HBFの一番のすごさは、性能の数字よりも「載る場所」にあります。
AIサーバーのGPUは、TSMCのCoWoS(コワス)に代表される先端パッケージ技術で作られています。シリコンインターポーザーという下敷きの上に、GPU本体とHBMを何個も隣り合わせに並べて、1つの巨大な「チップの集合体」として仕上げる技術です。GPUとHBMの距離をミリ単位まで詰めることで、あの超広帯域を実現しています。逆に言うと、この「一等地」に載れるかどうかが、メモリの帯域を決めるわけです。

先ほど「HBFはHBM4と実装面積・スタック高さを揃えている」と書きました。つまりHBFは、CoWoSのようなパッケージ上でHBMが座っている席に、そのまま置き換えで座れるように設計されているんです。サンディスクの資料にある上の図が分かりやすくて、GPUの周りにHBMを8個並べると合計192GB(この図の構成ではHBM1個24GB)。それをHBM2個+HBF6個の混載にすると3,120GB、8個全部をHBFにすると4,096GB。同じ「土地」で、載せるメモリの組み合わせを変えるだけで容量が10倍以上に化けるわけです。
実際の使い方としては、超高速が必要な計算中のデータはHBMに、AIモデルの重みや読み出し中心のデータはHBFにという役割分担が想定されています。SSDのように「少し離れた場所」から補うのではなく、GPUの隣の一等地に、HBMの相棒として同居する。ここが、CMX対応SSD(CM10)やスーパーIOPS SSD(GP1)とはレイヤーの違う話で、メモリとストレージの境界がまた一段溶けたと言えます。
HBFを支えるCBA技術とキオクシアの因縁
サンディスクの資料には、HBFの中身についてもう1つ見逃せないことが書いてあります。HBFはBiCS技術(3次元フラッシュ)とCBA技術(CMOS directly Bonded to Array)をベースにしているという点です。
CBAはCM10の記事で解説したとおり、メモリ部分と回路部分を別々のウェハで作って貼り合わせる技術。メモリと回路をそれぞれ最適化できるので、NANDの読み出しを爆速化できます。HBFが「NANDなのにHBM並みの帯域」を狙えるのは、この技術の延長線上にあるからです。
そして、ここからが面白いところ。BiCSもCBAも、キオクシアとサンディスクが共同開発してきた技術なんです。両社は四日市・北上の工場を共同運営し、フラッシュメモリを一緒に作っている、世界でも珍しい深い提携関係にあります。つまりHBFの土台には、僕の古巣キオクシアの技術DNAがガッツリ入っている。一方で、HBFの標準化を発表したのはサンディスクとSK hynixの組み合わせで、キオクシアの名前は(2026年8月時点の公開情報では)出てきていません。
ここからは完全に僕の個人的見解ですが、共同開発のパートナーであるキオクシアが、この流れの外に居続けるとは考えにくいと思っています。キオクシア自身もNVIDIAのCMXアーキテクチャー対応SSDや1,000万IOPSのGP1など、AIのメモリ階層に食い込む製品を矢継ぎ早に出しているうえ、さらにその先の未来枠として、SSDとサーバーを光ファイバーでつなぐ広帯域光SSDまで仕込んでいます。HBFという「NANDの新しい戦場」に対して、キオクシアがどう動くのか——ここは元中の人として、そして株主として、めちゃめちゃ注目しているポイントです。
HBFのロードマップ——第3世代で帯域2倍・電力0.64倍
サンディスクはHBFの世代ロードマップも公表しています。第1世代を基準(1x)として、こう進化していく計画です。
- 第2世代——容量1.5倍・読み出し帯域1.45倍(ダイの大容量化も含め、帯域2TB/s超・スタック容量は最大1TB級へ)
- 第3世代——容量2倍・読み出し帯域2倍・消費電力は0.64倍(帯域3.2TB/s級・スタック最大1.5TB級へ)

速く・大きく・省エネにを同時に進める、かなり強気のロードマップです。タイムラインとしては、サンディスクは2026年後半に最初のHBFサンプルを出荷し、2027年前半にはHBFを搭載したAI推論デバイスのサンプルが登場する見込みとしています。SK hynix側も、FMS 2026で披露した375層の4D NAND(電力あたり性能2.5倍)をはじめ、NAND側の弾を揃えてきています。標準仕様の公開から実製品まで、動きはかなり速そうです。
投資家目線——メモリ階層の再編で誰が勝つのか(個人的見解)
最後に投資家目線の話を。ここからは僕の個人的見解です。
HBFの登場で、AIサーバーのメモリ階層は「HBM(超高速・少量)→HBF(高速・大容量)→高速SSD→大容量SSD」という多段構成に再編されようとしています。この構図で注目すべきは、SK hynixが「HBMの覇者」でありながらHBF側にも張っていることです。HBMで先行者利益を取り切った会社が、HBMを部分的に置き換えるかもしれない技術の標準化を主導する——攻守両面を押さえる、実にしたたかな動きだと思います。
一方のサンディスクは、NANDしか持たない会社として、NANDの主戦場をGPUの隣まで押し上げる大勝負に出ています。そしてその技術基盤はキオクシアとの共同開発品。HBFが離陸すれば、NAND業界全体の需要構造が変わり得ます。ただし冷静に見るべき点も多い。HBFはまだ標準仕様が出たばかりで、製品サンプルはこれから。NANDの書き換え耐性や書き込み速度という宿命的な課題をAI推論用途でどこまで隠せるのか、実物での検証はこれからです。GPUベンダー(NVIDIAやAMD)が実際にHBFをパッケージに採用するかどうかも、まだ何も確定していません。
それでも、「NANDはしょせん倉庫」だった時代から、HBMの隣に座る候補にまで昇格してきたのは歴史的な変化です。DRAMで起きたHBMの下剋上が、NANDでも起きるのか。キオクシアがこの標準化競争にどう参戦するのか。メモリ業界の見どころが、また一つ増えました。
まとめ
メモリ市況全体はマイクロン決算の解説記事もどうぞ。僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。


