もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
2026年に入ってから、キオクシアがAI向けの新製品を立て続けに発表しています。なかでも注目が、2026年7月30日に発表された「KIOXIA CM10シリーズ」——NVIDIAの「CMX™(コンテキストメモリストレージ)」アーキテクチャーに対応した、キオクシア初のPCIe® 6.0対応エンタープライズSSDです。ただ、プレスリリースを読んでも専門用語の羅列で、正直なにがすごいのか伝わらないんですよね。この記事では、NVIDIA CMXとは何か、なぜAIサーバーにSSDが必須になったのかを、フラッシュメモリの現場にいた元研究開発者の視点から基礎のキソまで噛み砕いて解説します。
よくある質問
NVIDIA CMXとは何ですか?
Context Memory Storage Platform(コンテキストメモリストレージ)の略称で、AIの作業中の記憶(KVキャッシュ)専用のフラッシュストレージ階層をAIサーバーに追加するNVIDIAのアーキテクチャーです。2026年3月のGTCで発表され、BlueField-4プロセッサ・DOCA・Spectrum-X Ethernetなどで構成されます。長文コンテキストのAI推論でスループット最大5倍・電力効率最大5倍になるとNVIDIAは説明しています。
キオクシアCM10シリーズとはどんなSSDですか?
2026年7月30日に発表された、キオクシア初のPCIe 6.0対応エンタープライズSSDです。E3.S/E1.Sモデルに第10世代BiCS FLASH(332層のTLC)を採用し(2.5インチモデルは第8世代)、NVIDIA CMXコンテキストメモリストレージアーキテクチャーに対応。容量は1.60TB〜61.44TBで、前世代CM9シリーズ比でシーケンシャルリードが最大約92%、ランダムリードが最大約85%向上。E3.SとE1.S(9.5mm)はコールドプレートによる直接液冷(DLC)にも対応します。
KVキャッシュとは何ですか?
ChatGPTのような大規模言語モデルが、一度読んだ文章の解釈済みデータをメモリに置いて使い回す仕組みです。会話が長くなるほど・同時に処理するユーザーが増えるほど膨らみ、GPU直結のHBM(Rubin GPUで最大288GB)から溢れると全部を計算し直すことになり、速度と電力を大きく浪費します。この溢れたKVキャッシュを受け止めるのがCMXの役割です。
なぜHBMを増やさずにSSDで補うのですか?
AIサーバーの基板にはHBMを追加搭載する物理スペースがほぼなく、GPUの激しい発熱により熱的にも増設が難しいためです。安価で大容量なフラッシュメモリを高速化し、少し離れた場所に記憶の置き場として追加する方が現実的で、報道によればVera Rubin世代ではGPU1個あたり16TBのコンテキストメモリを割り当てられます。
CM10の売上への寄与はいつからですか?
CM10は現在、限定顧客向けサンプル出荷の段階です。NVIDIA CMX自体も2026年後半からパートナー経由で展開予定とされるため、本格的な売上への寄与は早くて2027年以降と筆者は推測しています(個人的見解です)。
NVIDIA CMX(コンテキストメモリストレージ)とは何か——AIサーバーに新設された「記憶の置き場」
NVIDIA CMXは「Context Memory Storage Platform(コンテキストメモリストレージプラットフォーム)」の名前で、ざっくり言うとAIサーバーの中に新しく作られた「記憶専用の置き場」です。2026年3月のGTC(NVIDIAの開発者イベント)で発表されました。
ChatGPTのようなAIと長く会話すると、AIは「ここまでの会話の中身」を覚えたまま次の返事を作る必要があります。この「作業中の記憶」をコンテキストと呼びます。最近のAIは、何十万文字もの長文を読ませたり、AIエージェントが何時間も作業し続けたりと、覚えておくべきコンテキストが爆発的に増えているんですよね。ところが、AIの計算をするGPUに直結したメモリ(HBM)は超高速な代わりに容量が小さく、値段もベラボウに高い。そこでNVIDIAは、溢れた記憶を受け止める専用のフラッシュストレージ階層をサーバー設計に組み込みました。それがCMXです。

NVIDIAの公式資料によると、CMXはBlueField-4という専用プロセッサとDOCA(ソフトウェア)、Spectrum-X Ethernet(ネットワーク)などで構成され、サーバー群(ポッド)全体で共有する「コンテキストメモリ階層」を追加します。この階層があることで、長いコンテキストを扱うAI推論でスループット(処理量)最大5倍・電力効率最大5倍になるとNVIDIAは説明しています。さらに報道によれば、次世代AIサーバー「Vera Rubin」ではGPU1個あたり16TBのコンテキストメモリを割り当てられる設計です。GPU直結のHBMは最大288GBですから、50倍以上の「記憶の置き場」が外付けされるイメージですね。
そして重要なのが、この「記憶の置き場」の中身はフラッシュメモリ(SSD)だということ。つまりCMXの登場は、NANDフラッシュがAIサーバーの本丸アーキテクチャーに正式に組み込まれたことを意味します。ここに、僕の古巣キオクシアのSSDが対応してきた——というのが今回の話です。
HBM・DRAM・SSDの違い——なぜAIにSSDが必要なのか
前提として、AIサーバーで使われる3種類のメモリを整理しておきます。
- HBM(広帯域メモリ)——GPUに直結された超高速メモリ。ベラボウに高価で、容量は3つの中で一番小さい。電源を切るとデータは消えます。
- DRAM——CPUとやり取りする高速メモリ。高価で、容量は中くらい。これも電源を切ると消えます。
- SSD(NANDフラッシュ)——スピードは遅いけれど、安くて超大容量。電源を切ってもデータが残るのはこれだけです。

みなさんのiPhoneの写真も、僕がYouTube用に撮っている動画のデータも、保存されているのは全部SSD(フラッシュメモリ)です。役割としては、HBMとDRAMが「机の上」、SSDが「倉庫」。倉庫からデータを机に広げて計算し、結果を倉庫に戻す——という分業になっています。
たまに「HBMとDRAMがあればSSDなんていらないでしょ」と言う人がいるんですが、そうはならないんですよね。まずデータを保存できるのはSSDだけなので絶対に必要。そして何より値段のケタが違う。同じ容量あたりのコストで比べると、フラッシュはHBMやDRAMよりはるかに安く、そのぶん容量も1ケタ多く積めます。だからこそ「遅い」という弱点さえ克服できれば、安くて大容量なフラッシュでHBMを補うという道が開ける。キオクシアが数年前からずっと狙ってきたのが、まさにここです。
KVキャッシュとは——AIの「会話の記憶」がHBMから溢れる問題
CMXが受け止める「記憶」の正体は、KVキャッシュと呼ばれるデータです。少しだけ仕組みの話をすると、ChatGPTのようなAI(大規模言語モデル)は、返事を1単語ずつ作るたびに「ここまでの文章すべて」を参照します。毎回ゼロから読み直すと計算量が爆発するので、一度読んだ文章の「解釈済みデータ」をメモリに置いておいて使い回す——これがKVキャッシュです。人間でいえば、会議の途中でここまでの議論をメモしておくようなものですね。
問題は、このKVキャッシュが会話が長くなるほど・同時に相手をするユーザーが増えるほど、どんどん膨らむこと。GPU直結のHBMは最大でも288GB(Rubin GPUの場合)しかないので、長時間働くAIエージェントの記憶なんてすぐに溢れてしまいます。溢れたら古い記憶を捨てるしかなく、また必要になったら全部計算し直し。これがめちゃめちゃ遅くて、電力もドブに捨てることになるわけです。
「じゃあHBMをもっと積めばいいじゃん」と思いますよね。ところが、これができないんです。

上の写真を見てもらうと分かるように、AIサーバーの基板はすでにぎっしり満員で、HBMを追加で載せる物理的なスペースがほぼありません。しかもGPUは1個でドライヤー1台分クラスの発熱をするため、水冷でないと冷やせない(このトレイは100%液冷です)。熱源のすぐ隣にメモリを増設するのも難しい。HBM自体の積層数を増やす手もありますが、こちらも技術的にどんどん苦しくなっています。「HBMの隣」がダメなら「少し離れた場所」に置くしかない——それがCMXという解で、遅いはずのフラッシュを爆速化してこの階層に滑り込ませたのがキオクシア、という構図なんです。ちなみに、それでも「HBMの隣の一等地」を諦めず、NANDそのものをHBMのように積んでGPUの隣に載せてしまおうという規格も動き出しています。こちらはHBF(High Bandwidth Flash)の解説記事で詳しく解説しています。
キオクシアCM10シリーズとは——初のPCIe 6.0対応エンタープライズSSD

ここからが本題のCM10シリーズです。2026年7月30日にキオクシアが発表した、同社初のPCIe® 6.0対応エンタープライズSSDで、プレスリリースに「NVIDIA CMX™コンテキストメモリストレージアーキテクチャーに対応」と明記されています。ポイントを整理すると、こうなります。
- PCIe 6.0対応——PCIeはGPUやCPUとSSDをつなぐ基本規格で、世代が上がるごとに速度が2倍になります。これまでのAIサーバーではSSDの接続はPCIe 5.0が主流でしたから、データの通り道が倍速になったということ。対応を最初に打ち出すのは技術的にかなり大変です。
- 性能は前世代比で大幅向上——前世代のCM9シリーズと比べ、シーケンシャルリード最大約92%向上・ランダムリード最大約85%向上。ほぼ倍ですね。
- 容量は1.60TB〜61.44TB——用途に応じてE3.S・E1.S・2.5インチの3形状を用意。
- 液冷対応——E3.SとE1.S(9.5mm)は、コールドプレートによる直接液冷(DLC)方式に対応。SSDまで水冷で冷やす時代になったわけで、AIサーバーの発熱のすさまじさが伝わってきます。
- 耐量子計算機暗号をサポート——CNSA 2.0準拠。将来、量子コンピューターで暗号が破られる時代に備えたセキュリティです。地味に面白いポイントですね。
すでに限定顧客向けにサンプル出荷が始まっており、8月4〜6日に米国で開催されたストレージ業界最大級の展示会「FMS: The Future of Memory and Storage」でも展示されました。NVIDIAの次世代アーキテクチャーに名指しで対応するSSDを、この時期に出せている——ここがキオクシアの爆速ぶりを示すところです。
第10世代BiCS FLASH(332層)のすごさ
CM10の中身のフラッシュメモリは、2026年7月3日にサンプル出荷が始まったばかりの第10世代BiCS FLASH™です(E3.S/E1.Sモデルの場合。2.5インチモデルは第8世代)。これがまたすごいんですよ。
3次元フラッシュメモリは、データを入れる「部屋」を高層ビルのように縦に積み上げる技術です。平屋のまま部屋を小さくする微細化が2013年頃に限界を迎え、「土地が広げられないなら高層ビルを建てよう」と生まれたのが3次元化。僕が量産立ち上げに関わっていた頃は48層とか64層——48階建てのビルだったのですが、第10世代はなんと332層。300階建て超えです。在籍していた身からすると、ちょっと信じられない高さまで来ました。
第10世代の公表スペックはこうです(第8世代比)。
- 332層の積層で、ビット密度59%向上——同じ面積により多くのデータを詰め込める=安く作れる
- データ転送速度4.8Gbpsで33%向上——フラッシュメモリ単体としての読み書きの出入口が高速化
- 電力効率は書込時18%・読出時30%改善——データセンターの電力不足が叫ばれるなか、低消費電力は営業上の強力な武器になります
生産は岩手県の北上工場第2製造棟で、サンディスクとの共同開発です。「大容量・高速・低消費電力」という、AI向けにそのまま刺さる3点セットを揃えてきた世代と言えます。
CBA技術——キオクシアがAI向けで先行できた理由
「フラッシュは遅い」が常識だったのに、なぜキオクシアはAIに組み込めるほど速いSSDを作れるようになったのか。鍵になっているのがCBA(CMOS directly Bonded to Array)という技術です。
フラッシュメモリのチップは、データを蓄える「メモリ部分」と、読み書きを駆動する「回路部分」でできています。従来はこの2つを同じウェハの上に作っていたのですが、これが悩ましい。メモリ部分を作る高温の工程で回路がダメージを受けたりして、どちらかの性能を妥協する絶妙なバランス取りを強いられていたんです。
CBAは発想を変えて、メモリ専用のウェハと回路専用のウェハを別々に作り、あとから銅の配線同士を直接貼り合わせる(ダイレクトボンディング)方式です。別々に作るので、メモリはメモリに、回路は回路に最適化し放題。結果として回路を高速に振り切れて、フラッシュメモリの読み書きが爆速になる。正直、僕が在籍していた頃には「そんなことできるのか」という世界の話で、初めて知ったときはドギモを抜かれました。ちなみに貼り合わせ方式自体は中国YMTCが「Xtacking」として先に実用化していますが(YMTCのNAND技術力の解説記事参照)、サムスン・SK hynix・マイクロンの大手3社に対しては、キオクシア・サンディスク連合が第8世代からの量産投入で先行しています。

NANDの各社が積層数の競争をしているなかで、キオクシアは数年前から「積層数」より「高速化」に舵を切り、NVIDIAのAIアーキテクチャーに食い込む道を選んできました。CMX対応のCM10は、その戦略がついに形になったものだと僕は見ています。
投資家目線——CMX対応SSDの売上寄与はいつからか(個人的見解)
最後に投資家目線の話を。ここからは僕の個人的見解です。
まず押さえておきたいのは、CM10は現時点で「サンプル出荷開始」の段階だということ。NVIDIA側もCMXは2026年後半からパートナー経由で展開予定とされているので、本格的な売上への寄与は早くて2027年以降になると推測しています。つまり、キオクシアの直近の好決算(2026年5月の決算解説参照)は、まだ普通のSSDだけで叩き出している数字なんですよね。CMX対応SSDが乗ってくるのはこれから、という点は押さえておきたいところです。
期待とリスクを整理すると、こうなります。
- 期待——NVIDIAのサーバー設計に「対応製品」として最初期から食い込めたこと。AIアーキテクチャーに深く組み込まれれば、他のAIサーバーメーカーへの採用にも波及する可能性があります。
- リスク——CMX対応をうたうこと自体は競合(サムスン・SK hynix・マイクロン)も追随してくるはずで、採用数量が確約されているわけでもありません。特需の規模はまだ何も確定していない、という冷静さは必要です。
それでも、「遅くて安い倉庫」だったフラッシュメモリが、AIの頭脳のすぐ隣まで昇格してきたのは、フラッシュ畑の人間として感慨深いものがあります。キオクシアは同じ発表ラッシュのなかで、GPUが直接読み書きする超高速SSD「GP1シリーズ」も発表しました。こちらは毎秒1,000万回のランダムリードという、さらに常識外れの製品です。GP1シリーズ(スーパーIOPS SSD)の解説記事で詳しく解説しているので、あわせて読んでみてください。
まとめ
フラッシュメモリの仕組み(バケツと水のイメージ)をもっと知りたい方はECC特許訴訟の解説記事を、僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。


