もふもふ不動産のもふです。僕は元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発に携わり、キオクシアではNOR型フラッシュや抵抗変化型メモリ(ReRAM)の研究開発を経て、世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに参画しました(2019年まで在籍)。発明者として特許出願も行っています。詳しくは研究開発者としての経歴ページをご覧ください。
「ダイヤモンド半導体」——シリコンを超える「究極の半導体」と呼ばれ、宇宙でも原発の廃炉現場でも動くと言われる材料です。ニュースで名前を見て「そんなにすごいなら、なぜまだ売っていないの?」「実用化はいつ?」と検索して来られた方が多いと思います。結論から言うと、用途によって時間軸がまったく違います。廃炉向けは2028年度に工場が本格稼働する一方、EVのパワー半導体のような「量産品」はまだ2030年代の話です。
この記事では、①ダイヤモンド半導体とは何か → ②何がすごいのか(物性の比較) → ③どこに使われるのか → ④なぜまだ実用化されないのか(4つの壁) → ⑤実用化はいつか(用途別ロードマップ) → ⑥2026年の最新動向 → ⑦企業・関連銘柄 → ⑧投資家目線の順に、材料開発の現場にいた人間の目線で解説します。動画でも解説していますので、あわせてどうぞ。
よくある質問
ダイヤモンド半導体とは何ですか?
CVD(化学気相成長法)などで人工的に育てた炭素の結晶に微量の不純物を混ぜ(ドーピング)、電気を流したり止めたりできるようにした半導体です。バンドギャップが約5.5eVとシリコン(1.1eV)やSiC(3.3eV)を大きく上回り、高温でも電流が漏れにくく、高電圧や放射線に極めて強いことから「究極の半導体」候補と呼ばれています。ただし加工が難しく高価なため、シリコンを置き換えるのではなく極限環境で使う切り札という位置づけです。
ダイヤモンド半導体の実用化はいつですか?
用途によって時間軸が大きく異なります。最も早いのは廃炉・耐放射線向けで、大熊ダイヤモンドデバイスの福島工場が2026年5月に竣工し、2028年度の本格稼働を目標としています。衛星通信・6Gなどの高周波用途は佐賀大学の嘉数誠教授が「5年後、6年後」との時間軸を示し、サンプルの製造・販売は2026年1月に始まりました。EVなどの量産パワーデバイスはウエハがまだ2〜3インチの段階で、2030年代が現実的というのが筆者の見立てです。
ダイヤモンド半導体の課題は何ですか?
大きく4つあります。①世界一硬いため切断・研磨・エッチングなど加工の全工程が極めて難しいこと、②シリコンが直径300mmなのに対しダイヤモンドは2〜3インチ級とウエハが小さいこと、③ホウ素によるp型に比べてリンによるn型のドーピングが難しく界面制御も困難なこと、④結晶欠陥が残って歩留まりが上がらず製造コストが桁違いに高いことです。専用の製造装置が育っていない点も足かせになっています。
ダイヤモンド半導体の関連企業・銘柄は?
上場企業ではイーディーピー(東証グロース・7794)、住友電気工業(5802)などが挙げられます。非上場では大熊ダイヤモンドデバイス、Orbray(オーブレー)、Power Diamond Systems、ダイヤモンドセミコンダクター、海外ではElement SixやDiamond Foundryが中心です。ただしイーディーピーは人工宝石用の種結晶が本業で営業赤字が続いており、旭ダイヤモンド工業(6140)やノリタケ(5331)は工具用ダイヤのメーカーです。銘柄の推奨ではありません。
ダイヤモンド半導体とは?——なぜダイヤモンドが半導体になるのか(30秒でわかる答え)

まず結論から。ダイヤモンド半導体とは、宝石のダイヤモンドと同じ「炭素の結晶」に、わざと微量の不純物を混ぜて(=ドーピング)、電気を流したり止めたりできるようにした半導体のことです。ここで使うのは天然の宝石ではなく、CVD(化学気相成長法)などで人工的に育てた合成ダイヤモンドです。
「なぜダイヤモンドが半導体になるのか」を理解する鍵がバンドギャップです。バンドギャップとは、ざっくり言えば「電子が動き出すために越えなければならない坂の高さ」のこと。これがゼロに近いと電気が流れっぱなしの金属(導体)、高すぎると電気を通さない絶縁体、そのあいだが半導体です。ダイヤモンドのバンドギャップは約5.5eV(電子ボルト)で、シリコンの1.1eV、SiC(シリコンカーバイド・炭化ケイ素)の3.3eVに比べて圧倒的に高い。そのままだとほぼ絶縁体なのですが、ホウ素(ボロン)などを混ぜてやると、電気を制御できる半導体としてふるまうんです。
そして「坂が高い」ことは、半導体として使うときに大きなメリットになります。高温になっても電子が勝手に坂を越えない=電流が漏れにくい。強い電圧をかけても壊れない=超高耐圧。放射線が飛び交う環境でも壊れにくい。だからダイヤモンドは、シリコンやSiCの先にある「究極の半導体」候補と呼ばれています。
ただし——ここが記事全体でいちばん大事なところですが——「究極」は「万能」という意味ではありません。後半で詳しく書きますが、ダイヤモンドは作るのも削るのも極端に難しく、値段も桁違いです。シリコンを全部置き換えるような材料ではなく、シリコンでは絶対に動けない場所で使う「切り札」と考えるのが実像に近いと僕は思っています。
何がすごいのか——4つの物性でシリコン・SiCと比較
ダイヤモンドが「最強」と呼ばれる理由は、上の図にある4つの物性です。ひとつずつ、意味とセットで見ていきましょう。
- ①広いバンドギャップ(約5.5eV)——Si(1.1eV)やSiC(3.3eV)を圧倒。高温でも電流が漏れにくく、高電圧環境に極めて強い。
- ②超高い絶縁破壊電界(10MV/cm)——絶縁破壊電界とは「どれだけ強い電圧をかけたら材料が壊れて電気が突き抜けるか」の限界値。ダイヤモンドはシリコンの約33倍です。同じ耐圧なら素子を薄く小さく作れるので、損失も小さくできます。
- ③トップクラスの熱伝導率(2000W/mK)——シリコンの約17倍で、全固体材料の中で最高峰。半導体は熱で性能が落ち、寿命が縮む世界なので、熱を瞬時に逃がせるのは実務的にとんでもない武器です。
- ④高い電子移動度(4000cm²/Vs)——電子の動きやすさ。電子の最大速度は2.2×10⁷cm/s。高速かつ省エネルギーな動作が期待できます。
数値で並べると、こうなります。
| 物性 | Si(シリコン) | SiC | ダイヤモンド |
|---|---|---|---|
| バンドギャップ | 1.1 eV | 3.3 eV | 約5.5 eV |
| 絶縁破壊電界 | 基準(1) | — | 10 MV/cm(Si比 約33倍) |
| 熱伝導率 | 基準(1) | — | 2000 W/mK(Si比 約17倍) |
| 電子移動度 | — | — | 4000 cm²/Vs |
| 電子の最大速度 | — | — | 2.2×10⁷ cm/s |
※数値の出典は産業技術総合研究所の公開資料。今回参照した資料にはSiC・GaN(窒化ガリウム)側の個別数値が示されていないため、「—」としています。ネット上には「シリコン比5万倍の電力効率」といった数字も出回っていますが、一次ソースを確認できなかったため本記事では使いません。
では、GaNやSiCとどう住み分けるのか。動画で作った「5大半導体材料の現在地」の整理が、いちばんわかりやすいと思います。
| 材料 | 特性 | 主な用途 | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| Si(シリコン) | 安価・加工容易・大量生産 | CPU、メモリ、センサー、パワー | 絶対的王道・汎用 |
| GaAs(ガリウムヒ素) | 高周波特性に優れる | スマホRF、衛星通信、マイクロ波 | 高周波通信の要 |
| InP(インジウムリン) | 光通信デバイス適性が高い | 光ファイバー用レーザー・受光器 | 光通信の主役 |
| SiC(シリコンカーバイド) | 高耐圧・高温・低損失 | EVインバーター、鉄道、急速充電器 | 次世代パワー半導体のエース |
| GaN(窒化ガリウム) | 高周波・高効率(バンドギャップ約3.4eV) | 急速充電器、5G基地局、データセンター電源 | 高周波・中耐圧の主力 |
| C(ダイヤモンド) | 超高耐圧・高温・高放熱 | 宇宙、核医学、特殊高電圧機器 | 究極の次世代候補(極限環境用) |

僕がいつも使うたとえで言うと、シリコンは「万能モーター」、ダイヤモンドは「特殊任務のジェット機」です。シリコンはスペックだけ見れば最強ではありません。むしろ物性は地味です。それでも勝ち続けているのは、安くて、作りやすくて、何にでも使えるという「扱いやすさ」が奇跡的だから。半導体の材料選びは、スペック勝負ではなく総合力勝負なんですよね。コンビニに行くのにロケットは使わない。ダイヤモンドは「ここぞ」という極限環境でこそ真価を発揮する材料です。
どこに使われるのか——廃炉・宇宙・6G通信・EV。用途で時間軸がまったく違う
では、その「ここぞ」とはどこか。実際に動いているプロジェクトを見ると、狙われている領域がはっきり見えてきます。
①原発の廃炉——高温・強い放射線でも動く
いちばん先行しているのがここです。産業技術総合研究所(産総研)と大熊ダイヤモンドデバイス株式会社は、福島第一原発の廃炉現場で動く耐放射線ダイヤモンド半導体チップを開発しています。200〜300℃の高温でも劣化なく動作し、ガンマ線環境下でも動くのが売りです。普通のシリコンの電子機器は、放射線が強い場所に置くとすぐ誤動作したり壊れたりします。だから燃料デブリの近くにカメラやセンサーを送り込めない。ここはダイヤモンドにしか埋められない穴なんです。
②宇宙・素粒子物理——研究の道具として
高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所は、産総研・大熊ダイヤモンドデバイスと共同で、素粒子実験用の超精密ダイヤモンドピクセル検出器を開発しました(2024年6月13日公開)。ダイヤモンドをピクセル状に微細化して電子回路と一体化し、電子の読み出しに成功したもので、世界でも例を見ない成果とされています。もとをたどると、2020年の日本原子力研究開発機構(JAEA)による廃炉用ダイヤモンド中性子検出器のプロジェクトが源流です。宇宙の放射線環境も同じ理屈で、ダイヤモンドの土俵になります。
③衛星通信・6G——高周波の世界へ
佐賀大学の嘉数誠教授のグループは、ダイヤモンド半導体で最大120GHzの電波の増幅に成功したと2025年12月8日に発表しました(遮断周波数120GHz、ダイヤモンド半導体として世界最高クラス)。ゲート絶縁膜の耐電圧も最大4266Vと世界最高記録を報告しています。狙いは衛星通信で使われている進行波管(真空管)の置き換えと、Beyond 5G・6Gです。真空管をまだ使っているのは、宇宙では放射線と熱に耐えられる半導体がなかったからで、そこをダイヤモンドで置き換えようという話ですね。
④EV・パワーデバイス——本命だが最も遠い
産総研と本田技術研究所は2025年3月24日、ダイヤモンドパワーデバイスでアンペア級の高速スイッチングを世界初実証しました。314素子を並列接続(総ゲート幅約32cm)して駆動電流2.5A、立下り19ns・立上り32nsという内容です。また佐賀大の嘉数教授グループは、出力電力875MW/cm²・出力電圧3659Vという世界最高の値や、2023年の世界初のダイヤモンド半導体パワー回路(10ns未満のスイッチング、190時間連続動作で劣化なし→2024年9月時点で3456時間の動作確認)を報告しています。ただし「314素子を並べて2.5A」という数字が示すとおり、EVのインバーターが必要とする電流にはまだ遠いのが正直なところです。
⑤放熱の土台として——「半導体そのもの」ではない使い方
面白いのがこの使い方です。住友電気工業と大阪公立大学は、2インチの多結晶ダイヤモンド基板の上にGaN-HEMTを作ることに成功したと第72回応用物理学会(2025年3月14〜17日)で発表しました。熱抵抗はSi基板比で1/4、SiC基板比で1/2。GaN-HEMTの温度上昇はSi基板上38 K·mm/W、SiC基板上23 K·mm/W、ダイヤモンド基板上10 K·mm/Wという値が示されています。
ここで大事なのは、これが単結晶ではなく多結晶(PCD)のダイヤモンドであり、ダイヤモンドは「半導体そのもの」ではなく「放熱の土台」として使われているということ。ニュースで「ダイヤモンド半導体」と一括りにされがちですが、中身はまったく別の技術です。そして僕は、この放熱用途がいちばん早くお金になる可能性があると見ています(個人的見解です)。単結晶よりハードルが低く、AIサーバーやRFデバイスの発熱という「いま困っている問題」に直接効くからです。
なぜまだ実用化されないのか——4つの技術の壁

物性がこれだけすごいのに20年以上「次世代」と言われ続けているのは、乗り越えるべき壁がとにかく高いからです。大きく4つあります。
壁① 加工の極限難度
ダイヤモンドは世界一硬い物質です。硬いから削りにくい、というだけではありません。切断・研磨・エッチング・デバイス形成のすべてが極めて難しい。半導体づくりは「材料を狙った形に狙った精度で削って積む」作業の繰り返しなので、その全工程が難物になるということです。産総研の資料では、廃炉向けデバイスの完成までに前工程で60〜100工程が必要とされています。
壁② ウエハの大口径化
シリコンウエハは直径300mm(30cm)が主流です。半導体は「大きな円盤の上にチップを一気に何百個も作る」ビジネスなので、ウエハが大きいほど1個あたりのコストが下がる。ところがダイヤモンドは長らく2インチ(約5cm)級が中心でした。面積で比べると30倍以上の差です。
ここは元研究開発者として実感を込めて書きたいところなのですが、ウエハの大口径化は「同じものを大きく作るだけ」に見えて、実際には別プロジェクトです。僕がいた工場でも、口径が変わると装置も治具もレシピもプロセス条件もほぼ全部作り直しになりました。結晶の反り、面内のばらつき、端の品質——大きくすると必ずどこかが崩れる。だから業界は450mmへの移行を検討して結局やめたわけです。ダイヤモンドが2インチから4インチへ、というのは地味に見えて、めちゃめちゃ重い戦いなんですよね。
壁③ ドーピング(とくにn型)と界面制御
ドーピングとは、半導体に微量の不純物を混ぜて電気の流れ方を設計することです。プラスの電荷が主役の「p型」とマイナスの電子が主役の「n型」を組み合わせて、はじめてトランジスタが作れます。ところがダイヤモンドはホウ素を使うp型は比較的作りやすい一方、リンを使うn型が難しい。n型の実現度が、そのまま実用化の鍵になっています。加えて、絶縁膜との界面の品質をきれいに保つ「界面制御」も難所です。シリコンが強いのは、SiO₂という理想的な絶縁膜が天然にできてしまうからで、この一点で他材料は全部ハンデを負っています。
壁④ 結晶欠陥と桁違いの製造コスト
CVD(化学気相成長法)で人工ダイヤモンドは作れますが、結晶の欠陥が残ると素子はそこから壊れます。欠陥が多い=歩留まり(良品率)が上がらない=コストが下がらない、という連鎖です。歩留まりは半導体の収益をほぼ決めてしまう指標で、僕の現場感覚でも、材料が新しいうちは「動く素子が取れるだけで拍手」というレベルからのスタートになります。結果として、ダイヤモンド基板の価格はいまも「べらぼうに高い」と言われる水準です(具体的な単価は公開情報として確認できませんでした)。
もうひとつ、僕が根っこの課題だと思っているのが製造装置のエコシステムがないことです。シリコン向けには世界中の装置メーカーが巨額を投じて装置を磨いてきましたが、ダイヤモンド専用の装置は市場が小さすぎて開発投資が入りにくい。装置がないから量産できない、量産しないから装置が来ない、というニワトリと卵です。ただしこれは僕の実務経験にもとづく見解で、裏づけとなる調査データを確認したわけではありません。
ダイヤモンド半導体の実用化はいつ?——用途別ロードマップ
本題です。「ダイヤモンド半導体の実用化はいつか」に一つの答えはなく、用途ごとに時間軸がまったく違います。現時点で企業・研究機関が公表している数字を整理すると、こうなります。
| 用途 | 時期 | 根拠(公表情報) |
|---|---|---|
| 廃炉・耐放射線デバイス | 2028年度に本格稼働 | 大熊ダイヤモンドデバイス福島工場が2026年5月竣工 |
| 衛星通信・6G(高周波) | 5〜6年後(2030〜2031年頃) | 佐賀大・嘉数誠教授の発言。サンプル販売は2026年1月開始 |
| EVなどの量産パワーデバイス | 2030年代 | ウエハが2〜3インチ段階(筆者の判断) |
いちばん確度が高いのが廃炉向けです。大熊ダイヤモンドデバイスは2026年5月に福島県双葉郡大熊町で世界初のダイヤモンド半導体工場を完成させました(敷地約5,800㎡、建築面積約1,100㎡、鉄骨2階建て。代表取締役 星川尚久、本社 札幌市北区、設立2022年3月1日)。用途は廃炉作業員の安全管理、燃料デブリの情報取得、宇宙、安全保障、次世代通信とされ、本格稼働は2028年度目標です。「工場が建ち、稼働時期が示されている」——これは研究段階の技術としてはかなり進んだ状態です。
次が衛星通信・6G。嘉数教授は宇宙での利用について「5年後、6年後という時間軸」と述べています。すでに佐賀市発のスタートアップダイヤモンドセミコンダクターが2026年1月からサンプルの製造・販売を始めており、「研究室から外に出る」段階に入りました。
いちばん遠いのがEVなどの量産パワーデバイスです。こちらは公表されたロードマップ自体がほとんどなく、ウエハがまだ2〜3インチで、素子を314個並べてやっと2.5Aという段階。2030年代が現実的というのが僕の見立てです(公式な発表ではなく筆者の判断です)。SiCがここまで来るのに何十年かかったかを思うと、ダイヤモンドの量産パワー半導体はまだ助走にも入っていないと考えるほうが正確だと思います。
ダイヤモンド半導体の企業・関連銘柄——上場企業は少なく、実態は研究開発フェーズ
「ダイヤモンド半導体 銘柄」で調べて来られた方も多いと思うので、事実だけ整理します。特定銘柄の推奨ではありません。
上場企業
- イーディーピー(東証グロース・7794)——単結晶ダイヤモンドの純度が最も高いと紹介されることが多い会社。2025年2月に30×30mmの単結晶を製品化、2025年4月に1インチウエハの販売を開始し、2インチのモザイクウエハを開発中。2026年3月の本田技術研究所との基本合意でストップ高気配になりました。
- 旭ダイヤモンド工業(6140)/ノリタケ(5331)——ダイヤモンド工具のメーカーです。
- 住友電気工業(5802)——前述のGaN-on-多結晶ダイヤの研究開発を進めています。
非上場・研究機関
大熊ダイヤモンドデバイス(北大・産総研発)、Orbray(旧アダマンド並木精密宝石)、Power Diamond Systems、ダイヤモンドセミコンダクター(佐賀市発)、産総研、佐賀大学 嘉数誠研究室、本田技術研究所。海外ではElement Six(デビアス傘下)、Diamond Foundry(4インチ単結晶ウエハを訴求し、AIチップ/データセンター/EVパワーを狙うと表明)などです。つまり中心にいるプレイヤーの多くが非上場か、研究機関だということです。
ここで冷や水を2杯
1杯目。イーディーピーの本業は、人工宝石用の種結晶メーカーです。2027年3月期第1四半期は売上高 約2億4,600万円(前年同期比+666.2%)と伸びた一方、営業損失 約2億2,700万円で赤字が続いており、第三者割当増資などで約9億7,000万円を調達しています。伸び率だけを見て「半導体の会社」と受け取ると実像を見誤ります。
2杯目。旭ダイヤモンド工業やノリタケが手がけるのは、切削・研磨に使う工具用ダイヤモンドであって、半導体用のダイヤモンドではありません。この点は、2026年2月18日に日米政府が発表した「戦略的投資イニシアティブ」第一陣3プロジェクトの話と混同されがちです。そのうち1件は「自動車・航空・半導体の部素材の加工に使用する工業用の人工ダイヤの製造プロジェクト」で、総額見込みは約6億ドル(約900億円)。日本のダイヤモンド工具メーカー(旭ダイヤモンド工業、ノリタケ等)が購入に関心を示している、という内容です。これは工具・研磨用の話であって、ダイヤモンド半導体とは別物です。ニュースのヘッドラインだけで結びつけないほうがいい部分ですね。
2026年9月時点の最新動向——動画公開(2026年4月)の前後に何が動いたか
ここからは、僕がYouTubeで解説した2026年4月の前後に出てきた新しい話を、2026年9月時点で整理します。動画では「ダイヤモンド基板は5cm(2インチ)」と説明していましたが、この1年で最も動いたのが、その大口径化でした。
- 3インチ単結晶を確立、4インチ開発に着手(2026年6月16日)——Orbray(オーブレー)とElement Sixが、3インチ(直径76.2mm)の単結晶ダイヤモンド結晶の生産技術を確立したと発表。あわせて4インチ(100mm)の開発にも着手しました。既存の半導体製造ラインへの適用を狙っています。2インチ(50.8mm)は米オレゴン州グレシャムのElement Six工場で量産準備の最終段階。両社は2024年6月に戦略的提携(知財のクロスライセンス)を結んでおり、Orbrayは2021年9月に「KENZANダイヤモンド」を開発しています。用途として6G無線、パワー/RF、センシング、熱マネジメント、量子技術を挙げています。
- 産総研が大面積ウエハーの新手法(2026年2月2日)——小さなダイヤモンドをSiウエハに複数接合する方法です。ダイヤとSiの熱膨張係数が600℃付近で逆転する現象を利用して1200℃で接合すると反りが減り、12mm角ダイヤ+2インチSiの構成で基板の高低差が27μm(従来の1000℃)→9μmに。ステッパーで1μm幅の微細パターンを作れる面積が約30%→95%に広がりました。「大きな単結晶を育てる」のではなく「小さいものを貼り合わせる」という発想の転換で、僕はこれが一番現実的なルートだと感じています。
- 120GHz増幅の報告(2025年12月8日)——前述の佐賀大の成果です。動画では「ダイヤモンドは周波数特性の面ではそこまで強くない」と説明して、この報告には触れていませんでした。この報告はその見方を更新するものです。高周波が使えるなら、狙える市場は宇宙・防衛から通信インフラへ広がります。
- 世界初のダイヤモンド半導体工場が竣工(2026年5月29日)——大熊ダイヤモンドデバイス(北大・産総研発)の福島工場です。
- 本田技術研究所×イーディーピーが基本合意(2026年3月27〜30日)——「ダイヤモンドデバイス用材料」の共同研究で基本合意。ウエハの大口径化・高品質化がテーマで、2026年8月末までに正式契約を結ぶ予定と発表されました。本記事執筆時点(2026年9月8日)で正式契約の発表は確認できていません。
- Power Diamond Systems×東レリサーチセンター(2026年8月20〜21日)——ナノスケールの材料・界面解析で共同研究を開始。温度上昇・放熱・消費電力をナノ領域で解明し、デバイス開発にフィードバックする狙いです。
並べてみると、「壁②大口径化」と「壁③界面制御」に、ちゃんと人とお金が入り始めているのがわかります。2インチ→3インチ→4インチという進み方は、外から見ると地味ですが、中の人から見ると相当な前進です。
投資家目線——ダイヤモンドはシリコンを超えるのか?(個人的見解)

ここからは僕の個人的見解です。結論から言うと、ダイヤモンド半導体は「まだ要素技術の研究段階」で、当面はあまり儲かるビジネスにはならないと考えています。シリコンが強すぎるからです。ただし超特化型のデバイスとして、ダイヤモンドが新たな道を切り開く可能性は十分にある——これが僕のポジションです。
「シリコンを全部置き換える」というシナリオは、僕はほぼ100%ないと思っています。最先端ロジックの微細化も、メモリも、センサーも、圧倒的な設備と人材とサプライチェーンがシリコンの上に積み上がっている。材料を替えるというのは、その全部を作り直すということです。
そして、この見立てを裏づける数字がひとつあります。EE Times Japanの記事(2023年8月時点の予測)によれば、2030年のワイドバンドギャップ(WBG)半導体単結晶の市場全体が3,176億円と予測されるのに対し、そのうちダイヤモンドはわずか5.78億円。比率にして0.2%未満です。つまり、業界の予測としても「2030年時点でダイヤモンドはニッチ」。ここに「次のSiC」を期待して大きく張るのは、時間軸の読み違えになりやすいと思います。
では何を見ていればいいか。僕は次の3つのKPIを追っています。
- ①ウエハの大口径化——2インチから4インチ、さらに大型化へのブレイクスルー発表。2026年6月の3インチ確立は、まさにこのKPIが動いた瞬間でした。
- ②歩留まりの改善——結晶欠陥の低減と、安定製造技術の確立。ここが動かないとコストは絶対に下がりません。
- ③キラーアプリケーションの登場——実際に採用を決める顧客・用途の出現。廃炉、衛星通信、そしてGaNの放熱土台が候補です。
注目セクターとしては、ダイヤモンド基板・CVD装置メーカー、大学や産総研との研究連携企業、放射線検出・特殊高耐圧用途、周辺材料(GaN-HEMT等)といったところ。ただし、上の図に書いたとおり長期テーマとして追うべき段階で、5年後にどうなっているかは、正直、僕にも予想できません。
最後に、投資の話とは別の本音を書いておきます。僕がダイヤモンド半導体に期待しているのは、儲けよりも人類の研究が加速することです。廃炉現場に入れる目、宇宙で壊れないセンサー、素粒子を数える検出器。シリコンではどうにもならなかった場所に道具が届くというのは、それ自体がすごいことだと思うんですよね。研究の道具が変わると、そのあと世界が変わる。量子コンピューターと同じで、時間はかかるけれど見届ける価値のあるテーマです。
まとめ
半導体材料の基礎から知りたい方は半導体メモリの基礎解説、最先端ロジックの微細化競争はラピダスの2nmトランジスタ解説、同じく「長期テーマ」枠の技術は量子コンピューターの記事もどうぞ。僕の研究開発者としての経歴は経歴ページをご覧ください。半導体テーマの解説・監修・取材のご依頼はお仕事のご依頼ページからどうぞ。

