もふもふ不動産のもふ、元キオクシア(旧東芝メモリ)の半導体研究開発者です。学習院大学物理学科でボース・アインシュタイン凝縮(BEC)を研究したあと、ソニー・キオクシアで16年、先端半導体の研究開発と世界初の48層3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の量産立ち上げに携わりました(詳しくは研究開発者としての経歴ページ)。
2026年9月12日、僕は不動産投資サイト「楽待」のYouTubeチャンネルで、神戸大学の木村建次郎教授と対談させていただきました。ホワイトボードの前で理論の中身を直接解説していただく、とんでもなく贅沢な時間でした。
対談は前編・後編の2本です。本文中の時刻を押すと、YouTubeでその場面から再生できます。
さて、本題です。「波動散乱の逆問題」とは、跳ね返ってきた波だけを手がかりに、「その向こう側に何があるのか」を逆算する問題のことです。長年、応用数学の未解決問題とされてきました。
これを2012年に世界で初めて解析的に解いたのが、木村建次郎教授です。いまその理論をもとに、乳がん検査(マイクロ波マンモグラフィ)、トンネル・道路の非破壊検査、電池の検査といった実用化が進んでいます。ひとことで言えば、「透視」を数学で実現したという話です。
この記事では、元半導体研究開発者の目線で、その原理を中学生にもわかるレベルまで噛み砕いて解説します。対談で木村先生ご本人が語った言葉も、各章に織り込んでいきます。
よくある質問
波動散乱の逆問題とは何ですか?
物体に波(マイクロ波など)を当て、跳ね返ってきた散乱波のデータだけから「中に何があるのか」を逆算する問題です。物体の形が分かっていて波の跳ね返り方を計算するのが順問題で、その逆にあたります。答えの候補が無限にあり、波が何度も跳ね返る多重散乱も絡むため、長年、応用数学の未解決問題とされてきました。神戸大学の木村建次郎教授が2012年に解析解を導き、内部を壊さずに「透視」する技術の基礎になっています。
木村建次郎教授はどうやって波動散乱の逆問題を解いたのですか?
着想は、机の上の磁石に布をかぶせて方位磁針で探すという子どもとの遊びでした。見えていない世界には発生源が存在しないので、方程式の右辺を0と置いてよい(本人の言う「虫食いの理論」)。表面で測ったデータを境界条件に内側を解き進め、計算が破綻(発散)する場所こそが隠れた物体の輪郭になります。これを波に拡張したのが、木村憲明氏との共同研究で確立した多重経路散乱場理論で、解が線形のためフーリエ変換で高速に計算できます。理論はシステム制御情報学会誌の解説論文と、日米中欧など9か国で取得した特許として公表されています。
マイクロ波マンモグラフィは病院で受けられますか?
2026年9月時点では治験段階で、薬事承認も保険適用もされておらず、一般に受けられる検査ではありません。治験機器名はIGS-0001で、兵庫県立がんセンターで実施され、jRCTに登録されています。2019年に厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象品目に指定されました。開発元のIntegral Geometry Scienceは、検査時間15分程度・放射線被ばくなし・乳房を圧迫しないという特徴を公表しています。
Integral Geometry Science(IGS)の株は買えますか?
株式会社Integral Geometry Scienceは未上場で証券コードがなく、個人投資家が直接株式を買うことはできません。IPO予定の公表も確認できません。TOPPANホールディングス、CYBERDYNE、旭化成、SBIインベストメントなどが出資や資本提携を公表していますが、出資比率はいずれも非公表で、各社の業績に占める影響は限定的と考えられます。特定銘柄の推奨ではありません。
波動散乱の逆問題とは?順問題と逆問題の違い
まず、「逆問題」という言葉から。逆問題とは、観測された結果から、その原因や中身を逆算する問題のことです。反対に、原因がわかっているときに結果を計算するのが順問題です。

波でイメージしてみましょう。お風呂にアヒルのおもちゃを浮かべて、端からパシャンと波を立てる。アヒルの形と位置がわかっていれば、波がどう跳ね返り、どんな散乱波になるかは計算できます。波動方程式を解けば答えが1つに決まるので、ここは素直に計算できるんですよね。これが順問題です。
では逆に、風呂桶でふたをして、中が一切見えない状態にする。そこに波を打ち込み、跳ね返ってきた波の形だけを観測します。このデータだけから「中にアヒルがいた」と当てられるか。これが波動散乱の逆問題です。
楽待の対談の冒頭で、僕は「波動散乱の逆問題って、パッとイメージが湧きにくいんですけど、どういう技術なんでしょうか?」と伺いました。木村先生の答えはこうです。
「スマホで写真を撮ったら目の前のものが映りますよね。その映った写真をもとに計算すると、見えていない向こう側の写真がどんどん作り出されていく。そういう魔法のカメラみたいなものを作る数学、という感じですね」
思わず「ドラえもんの道具でありそう」と返してしまいました。でもこの一言が、技術の本質を完璧に言い表していると思います。
なぜ何十年も解けなかったのか
「跳ね返り方を全パターン計算して照合すればいいのでは?」と思った方もいるかもしれません。ところが、これが恐ろしく難しい。理由は大きく2つあります。答えの候補が無限にあることと、波が何度も跳ね返る「多重散乱」です。

理由①答えの候補が無限にある
ある散乱波のデータを生む物体の形は、アヒルかもしれないし、棒が1本かもしれない。まったく別の何かかもしれません。「足して8になる2つの数は?」と聞かれても、3と5、2と6……と答えが1つに決まらないのと同じです。厳密に計算しようとすると解が発散し、有限の時間では計算しきれない。普通に考えたら、絶対に解けない問題なんですよね。
理由②波が何度も跳ね返る(多重散乱)
波は狙ったところに真っすぐ飛んでくれません。物体に当たるとあちこちに散らばり、散らばった波がまた別の場所に当たって、さらに散らばる。1回散乱、2回散乱、3回散乱……と、どんどん絡み合っていきます。
さらに、深さの情報を得るには「いつ波が返ってきたか」という時間の情報も要ります。これらが全部混ざったデータをきれいに整理しないと、解決にたどり着けない。それが長年の状況でした。
解いた本人も「無理やと思った」
告白すると、僕自身「こんなことできるわけないだろう」と思っていました。物理学科出身の人間としての直感で、これは無理筋だと。だから「解けた」と聞いたときの率直な感想は、「本当かいな」でした。
面白いのは、それを解いたご本人も同じことを言っていたことです。楽待の対談で、木村先生はこう語りました。
「最初、無理やと思ったんです。僕は無理なことはやらない主義なんで。ダメなことが1個でもわかると、もうやらない」
そのうえで、「でも、いけると思ったから今やってるんですけど」と続けます。みんなが「できない」と思うことに取り組む人の多くは、精神論で頑張っているのではありません。本当に「できる」と確信しているからやっている。ここが凄いところだなと思いました。
木村建次郎教授はどう解いたのか——布の下の磁石から生まれた着想
結論を先に書くと、木村先生は「見えていない場所には何もない」と割り切ることで、解けない方程式を解ける方程式に置き換えました。ここがこの記事の山場です。着想から数式までを、順にたどります。
楽待の対談では、木村先生が38分のうち10分以上を使い、ホワイトボードにその場で式を書きながら透視の原理を解説してくださいました。冒頭に載せた前編の10:09〜「透視の原理をホワイトボードで解説!」の章がそれです。文字だけでは伝わりにくい部分なので、ぜひ動画もあわせてご覧ください。

きっかけは、お子さんとの遊びだった
着想のきっかけは、驚くほど身近なところにありました。前編の07:30〜「布の下の磁石が生んだ着想」で語られている話です。
木村先生がお子さんとやった簡単な実験です。机の上に磁石を置き、上から布をかぶせる。磁石はもう見えません。そこに方位磁針を持ってくると、磁石の真上で針がくるくる回る。先生はこのとき「あ、もうこれで、これだと思いました。これでいけるって」と直感したそうです。

言われてみれば当たり前の現象ですが、よく考えると不思議です。磁石は見えていない。つまり「逆問題としては解けない」はずなのに、方位磁針でなぞるだけで「ここにある」とわかってしまう。この当たり前が、なぜ成立するのか。先生はそれをずっと不思議に思っていたそうです。
この話が出たとき、僕は予習していなかったので内心かなり焦りました(笑)。とっさに返したのが、「ファインマンさんが、食堂でグラグラ揺れながら回る皿を見て量子電磁力学のアイデアを思いついた、というストーリーにすごく似てますね」。偉大な発見の入り口は、本当にこういう日常の中にあるんだなと。ちなみに先生いわく、アイデアが浮かぶのは「トイレが一番よく思いつきます」「トイレか寝てる時間」だそうです。
「虫食いの理論」——見えていない世界では、方程式の右辺を0にできる

では、この直感をどうやって数学にしたのか。ここが本当に鮮やかです。木村先生ご本人は、これを「虫食いの理論」と呼んでいます。
磁石がある空間を普通に数式で扱うと、ポアソン方程式という形になります。この方程式は、右辺(発生源=磁石がどこにどれだけあるか)を仮定しないと解けません。答えを知らないと解けない、という堂々巡りです。
ここで木村先生は発想を反転させます。「でも、この子どもには磁石が見えてないんです」。見えていない世界には、発生源は存在しない。だから、その世界では方程式の右辺を0と置いていい。すると方程式はただのラプラス方程式になり、前提条件なしで解けてしまうわけです。言い換えると、「磁石はどこにある?」という答えを先に求める問題から、「磁石のない場所で、磁場がどうつながっているか」だけを解く問題に変えたのです。
あとは、表面(端っこ)で測ったデータを手がかり(境界条件)にして解き進めれば、計算上、内側のデータをどんどん作っていけます。ただし布を超えた瞬間、つまり本当に物体がある場所に来ると、この計算は破綻します。だから「物がある世界にいちばん接する極限まで」解く。その破綻する(発散する)場所こそが、隠れていた物体の輪郭そのものです。

「解けない問題を、解ける問題に置き換えてしまう」。この転換が理論の核心です。僕は思わず「複素関数論の留数定理みたいなイメージですね」と返しました。
磁石から波へ——グリーン関数を置き換える
ここまでは、止まっている磁場の話です。これを波の世界に持っていきます。
カギになるのがグリーン関数です。グリーン関数とは、「1点だけに発生源があるとき、周りにどんな場ができるか」を表す式のこと。これを部品にして足し合わせれば、全体の場を組み立てられます。
止まっている場の場合、1点の発生源が作るポテンシャルは1/rです(ラプラス方程式のグリーン関数)。波の場合は、これを eiqr/r に置き換えます(ヘルムホルツ方程式のグリーン関数)。eiqrの部分はサインやコサイン、つまり波そのものを表します。1/rの部分は「球状に広がるので、距離に反比例して弱くなる」という意味です。スピーカーの音が、揺れながら遠くほど小さく聞こえるのと同じです。こうして散乱の問題を、磁石のときと同じ形の問題にしてしまう、という発想です。
さらに「波を打って、帰ってくる」を表すため、打つ側の座標r1と受ける側の座標r2を掛け合わせます。「送信点から物体まで」と「物体から受信点まで」の2本の道のりを、1つの式にまとめるイメージです。
木村先生が凄いのはここからです。「普通は方程式が先にあってグリーン関数が決まる。逆に、先にこのグリーン関数が決まったとき、方程式はどうなるのかを導こうと頑張った」。順序を逆にして探しにいったら、方程式が見つかったわけです。
最後に、r1とr2を同じ点に近づける極限(同じ場所で打って、同じ場所で受ける)と、t=0の極限(打った瞬間に帰ってくる)を取ります。送信点・受信点・物体の3点が作る三角形を、無限に小さく潰していくと、残る変数はrだけ。それが密度関数(どこにどれだけ物があるか)そのもので、散乱体があるところで発散します。その発散する値を画像にすれば、それが透視画像になります。
中学生向けに言い換えると、「この点で波を打ったら、その瞬間に跳ね返ってくるか?」を内側のすべての点で調べ、跳ね返ってくる点を塗っていく。それが透視画像です。

この理論は「多重経路散乱場理論」と名付けられ、木村建次郎・木村憲明の両氏によって2012年に確立されました。僕が読んだのは、システム制御情報学会誌『システム/制御/情報』Vol.64 No.3(2020年)に掲載された解説論文です。式は(1)から(27)まであり、最終的な再構成式が式(27)。正直に言うと、1から2に行くあたりでもう、めちゃめちゃ難しかったです。
なお、成果の主たる公表形態は特許です。「散乱の逆問題の解法及び画像化法」として優先日2013年2月12日、日米中欧など9か国で取得されています。
対談のあとで僕が一番印象に残ったのは、20:47の章に入る直前のやりとりです。僕が「論文や他のYouTubeで拝見した説明とは、まったく違う方向からの説明でした。初めてこっち側から来たので」と言うと、先生はこう答えました。
「大学の授業ではこっちからやってます。いきなりグリーン関数の話から入ると細部に入ってしまうので、全体のイメージはこっちのほうがわかりやすい」
つまり磁石と布から入るあの説明は、論文にも一般向け解説にも載っていない、教壇での語り口なんです。その意味でも、あの38分はかなり貴重な記録だと思っています。
X線・CTとの違い——透過した波ではなく跳ね返った波を見る
「透視」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、レントゲン(X線)でしょう。結論から言うと、X線は物体を貫通した波を、波動散乱の逆問題は跳ね返ってきた波を見ます。この違いが、何に使えるかを決めます。図で整理します。

X線は「影絵」、逆問題は「跳ね返り」を見る
X線は「透過した波」を見ています。X線源から強いエネルギーの電磁波を出して人体を貫通させ、反対側に置いた検出器で受ける。骨のように密度の高い部分がX線を吸収するので、そこが白く写ります。要するに「影絵」を見ているわけです。だから必ず反対側に検出器が必要で、しかも人体には被ばくというダメージがあります。
波動散乱の逆問題は「跳ね返ってきた波」を見ます。だから送信も受信も同じ側に置ける。この違いが、応用範囲を決定的に広げます。トンネルの壁の裏側や地面の下に、検出器は置けません。でも跳ね返りを見る方式なら、表面に当てるだけで内部がわかります。
使う波も違います。X線ではなくマイクロ波(電子レンジと同じ電磁波)で、波長はミリメートル〜センチメートル級。X線よりはるかに長い波です。
フーリエ変換で、跳ね返った波を成分に分ける
跳ね返ってきた複雑な波を成分に分解するときに活躍するのが、フーリエ変換です。ここも図でイメージをつかんでください。

ケーキを見ても、何からできているかはわかりません。でも成分分析をすれば「小麦粉30%・砂糖15%・生クリーム25%・いちご10%・その他20%」と分解できる。これを波でやるのがフーリエ変換です。複雑な波形を「この周波数が40%、次が30%……」と分解し、全部足し戻せば元の波形に戻ります。
木村先生の導いた式は線形(2乗などになっていない)なので、フーリエ変換が使えます。線形とは、入力を2倍にすると出力もちょうど2倍になる、素直な関係のことです。だからFFT(高速フーリエ変換)を使って、コンピュータが猛烈な速さで解ける。ここが実用化に直結した大きなポイントです。
CTスキャンとの違い
では、いま病院にあるCTスキャンと比べるとどうなのか。前編の33:22〜「従来のCTスキャンと何が違うのか」で木村先生が語った説明が、非常にわかりやすかったので紹介します。
CTはX線を体全体に当てるので、骨にも他の臓器にもエネルギーが分散してしまう。それに対してマイクロ波マンモグラフィは、胸だけに全エネルギーを使います。計測器のADコンバータ(アナログ信号をデジタルに変換する部品)のビット数が、すべて胸の情報に割り当てられる。だからCTやMRIでは見えないような小さながんが見える、という理屈です。ビット数は、ものさしの目盛りの細かさのようなもの。同じ目盛りを胸だけに使えるので、細かい違いまで読み取れるわけです。
また先生は、「X線は強いエネルギーのものを使うので、位相情報を取っていない」とも指摘されていました。位相とは、波の「山と谷のタイミング」のこと。この情報を、X線は最初から捨ててしまっているわけです。
解析解だから、走りながらでも一瞬で解ける
実用面で大きいのは、解析解なので瞬間的に解けることです。解析解とは、「答えを出す公式」が手に入っている状態のこと。近似計算を延々と回すのではなく、式に入れれば答えが出ます。だから計算の速さとしては、時速50km・100kmで走りながらでもリアルタイムに解けます。この汎用性について、先生が「この汎用性の強さに酔いしれますね」と語っていたのが印象的でした。
応用①マイクロ波マンモグラフィ——X線で見えなかったがんが見える
先に重要な注意を書きます。この技術は2026年9月時点で治験段階であり、薬事承認も保険適用もされていません。「いま受けられる検査」ではありません。そのうえで、なぜマイクロ波でがんが見えるのか、何が実現を阻んでいたのか、いまどの段階にあるのかを解説します。
なぜマイクロ波でがんが見えるのか
カギは水分です。マイクロ波は誘電率の高いもの(=水分の多いもの)で強く反射します。誘電率は、物質が電気にどれだけ反応しやすいかを表す数字で、水はこれがとても大きい物質です。
対談での木村先生の説明によれば、乳房のうち、脂肪や乳腺(母乳を作る小葉と運ぶ乳管)は脂肪細胞でできていて誘電率が低いので、マイクロ波が透過します。一方、がんは増殖する過程で、自分に栄養を送る血管をたくさん作るため、水分が多い。木村先生はこれを「水に溢れた村」のようになると表現されていました。だから、周りは素通りして、がんだけが強く跳ね返る。コントラストが極めてはっきりつくわけです。

デンスブレスト問題と、「AIを使っても無駄」という一撃
従来のマンモグラフィは、乳房専用のレントゲン検査です。乳房を圧迫板で挟んで、上下・左右・斜めから撮影します。痛みがあり、被ばくもある。そして最大の課題が、デンスブレスト(高濃度乳房)です。
乳房の硬さの原因は、線維芽細胞が作るコラーゲン線維です。コラーゲンはタンパク質の高次構造で非常に硬く、X線を遮断してしまう。X線は「重いものと軽いものの差」を見ているので、コラーゲンの揺らぎのほうががんより大きく、がんがそもそも画像に写りません。白い雪原で白いウサギを探すようなものです。
高濃度乳房はアジア人女性に多いとされ、IGSの公表資料では、50歳未満のアジア人女性の79%という数字が示されています。

この話の流れで、僕は「がんがあるのに見落としてしまう、ということがあったんでしょうか?」と伺いました。そのときの答えが、対談で一番痺れた発言です。
「見落としというと『あるのに見抜けなかった』とか『じゃあAIを使ったら見えるのか』みたいな話になるんですが、そもそも映らないからAIを使っても無駄なんです。良性か悪性かを識別するために統計的に分析するのがAIであって、そもそも画像にその情報が含まれていなかったら、AI君も何をやっても無駄。そういう問題が超音波でもX線でもある、というのが根本的な問題なんです」
何でもAIで解決できそうな空気の中で、「入力データに情報が入っていなければ、AIには原理的にどうにもできない」と冷静に切る。問題を解くべき場所は、アルゴリズムではなく計測のほうだった。研究開発者として、これは深く納得しました。
2つの壁と、「作りました。10年かけて」
実は「マイクロ波を使えばがんが見えるはずだ」ということ自体は、世界中の物理学者が以前から指摘していたそうです。ではなぜ実現しなかったのか。木村先生は、壁は2つあったと説明されました。
- 数学の壁:散乱したマイクロ波を、どうやって画像に再構成するのか。これがまさに波動散乱の逆問題です。
- ハードウェアの壁:ミリ単位の分解能を出すには高い周波数が要る。一方、鋭いパルスを作るには、低い周波数まで含む広い帯域が要る。それを胸の上に載る小さなアンテナで両立させるのが、誰にも作れなかった。小さな笛で低い音を出すのが難しいのと同じで、小さなアンテナで低い周波数を扱うのは難しいのです。

「この2つの壁をクリアできたのは、世界で僕らしかいない」と先生は言い切りました。僕が「それを作ったってことですか?」と聞くと、返ってきたのが「作りました。10年かけて(笑)」。
検査そのものは驚くほどシンプルです。高い周波数も低い周波数も出せるプローブを手に持って、胸の上を滑らせるだけ。反射データを取って計算し、画像化します。

先生いわく「そんなに難しい技術もいらないんです。もう1日練習すれば誰でもできてしまいます」。僕は思わず「CTって、すごい装置に入れられて時間をかけてやるじゃないですか。なぞるだけでこんなにできちゃうんですか?」と驚いてしまいました。
IGS公式サイトで確認できる特徴は、検査時間15分程度・放射線被ばくなし・乳房に圧力をかけない(痛くない)の3点です。使用する電波の強さは、スマートフォンの1/1000と説明されています。
ただしデンスブレストへの効果については、IGS公式も「高濃度乳房においても有効性が期待されます」という表現で、断定はしていません。臨床研究の段階で高い検出感度が示されている、というのが正確なところです。
実用化のステータス(ここは正確に)
投資家としても生活者としても、ここは事実を正確に押さえる必要があります。
- 治験機器名はIGS-0001(一般名称「乳房用マイクロ波画像診断装置」)。jRCT(臨床研究等提出・公開システム)に登録されており、実施医療機関は兵庫県立がんセンター、依頼者はIGSです。
- 2019年4月、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されました。
- 兵庫県立がんセンターの「実施中の治験一覧」では、2026年2月時点でも「登録中」となっています。IGS公式サイトも現在形で「治験を実施しています」と記載しています。
- 楽待の対談で木村先生は「日本は今治験をやっていて、治験がもうほとんど終わったところです」と語っていました。ただしこれはご本人の発言であり、公的記録上は治験中です。薬事承認・保険適用はいずれも確認できません。
つまり「開発中・治験中」が正確な現在地です。期待は大きいけれど、まだ病院で受けられる検査ではない。ここは混同しないでいただきたいところです。
応用②トンネル・道路の非破壊検査、電池、保安検査
実は、IGSの事業として先に立ち上がっているのは医療以外の分野です。この章では、インフラの非破壊検査・リチウムイオン電池の検査・保安検査の3つを、それぞれの実用化の段階とあわせて紹介します。
インフラの非破壊検査

IGSの製品のひとつが鉄筋破断・腐食非破壊検査システムです。構造物の表面で電磁場の分布を計測し、内部を透視して、鉄筋の破断や腐食を診断します。
対象は非常に幅広く、トンネルの壁、地面の下の空隙、電線、水道管、高層マンションの壁の内部に及びます。水力発電所の導水管の裏側の腐食、ダムのひび割れ、橋梁、道路も対象です。
特筆すべきは、走らせながら測れることです。アクティオのレンサルティングマガジンのインタビューで、木村教授は電車や検査車両にアームを付けて測る方式を紹介しています。アームの先のアンテナ・センサーで、壁の中の電磁波情報を読み取る仕組みです。教授いわく「時速10kmくらいで走らせて検査できます。1kmほどのトンネルなら、検査そのものは10分程度」。
従来の打音検査のように、人が場所を移動しながら一か所ずつ叩いて回る必要はありません。解析解だからリアルタイムで解けるという強みが、そのまま現場の生産性になっているわけです。国土交通省のi-Construction大賞 優秀賞(2020年)も受賞しています。
リチウムイオン電池の非破壊検査

これは僕が個人的に一番「うまい」と思った応用です。リチウムイオン電池の不良を見つける従来のやり方は、こうです。充電して、温度管理された環境で長時間エージング(放置)し、電圧がどれだけ下がったかで自己放電量を判定する。時間がかかるうえ、「どこがおかしいのか」は分かりません。
新方式は逆です。交流電流を流し、そのとき生じる微弱な磁場を超高感度磁気センサアレイで測り、逆問題を解いて電流密度マップを作る。すると、電流が集中している場所、つまり微小短絡(リーク経路)の位置が直接見えます。布の下の磁石と同じで、電流が作る磁場を外から測り、中の電流の通り道を逆算しているわけです。
神戸大学の公式資料では、このリチウムイオン電池内部の異常電流を可視化する技術が、多くの蓄電池メーカや自動車メーカで活用されていると説明されています。事業としては、凸版印刷(TOPPAN)が2020年2月から機器販売と受託検査サービスを開始しました。2026年3月には蓄電池組み込み前の一括画像検査サービスも始まっています。
対談の後編(9月15日公開)では、そもそもなぜ電池は発火するのかを、木村先生が半導体との対比で説明してくださいました。
半導体は、欠陥のない単結晶のインゴットから作ります。これに対して電池は、正極材料をポリマーと混ぜてペーストにし、集電体の箔に塗って作る。だから内部は決して均一にならず、リチウムの濃度に必ず「ゆらぎ」が生まれます。濃度の高い場所ではリチウムが樹枝状に析出して短絡し、急速充電のときに発火する。これが基本的な見立てです。
裏を返せば、最初に充電したときの電流分布を測れば、ゆらぎの大きい危険な個体を出荷前に見分けられることになります。先生ご自身の言葉では、この技術は故障解析の分野で「使ってくれていないところはないくらい」世界中の電池メーカーに使われているそうです(ご本人の発言)。
実はこの「エージング」をめぐる検証、僕も現場でやったことがあります。2005年、ソニーで新技術のシステムディスプレイを担当していたときのことです。「液晶を高温にしたときにどれくらい劣化するのか」「壊れかけの不良品を、出荷前の検査でどう事前に弾くのか」を、短期間で検証する実験をしました。短時間の高電圧パルスで、初期不良を出し切れるかを確かめたかったのです。
専用のエージングボードは1000万円以上するうえ、同時に10枚しか駆動できません。そこで、設計検証用の駆動ボード10台に自作の信号分配基板をつないで100枚を同時に駆動できるようにし、工場の空いていた高温室に籠もって、約1000枚の液晶を高温で駆動しました。結果、高温で長時間駆動したときの劣化と、高電圧パルスによる劣化が同等だと確認でき、高コストなエージング工程を導入せずに済みました。
あれを「待たずに、場所まで分かる」形にできるなら、製造現場へのインパクトは相当大きい。それが実感です。
保安検査(ウォークスルー型セキュリティ)
もうひとつがウォークスルー型セキュリティシステムです。IGS公式サイトによれば、従来の金属探知機やミリ波ボディスキャナと比べて、次の特徴があるとされています。
- 測定時間は約0.1秒
- 脇の下や手荷物の中の危険物も検知できる
- X線のような被ばくの心配がない
- 身体のラインが透けるといったプライバシーの問題もない

ただし、ここも実用化の段階は正確に書きます。2024年12月、神戸市立中央体育館でのBリーグ(神戸ストークス)の試合会場で、2日間・2,000人超を検査して100%検知することに成功したと公表されています。施設運営者の公式リリースでは、処理能力を「1秒間に2人通過し、すべての通過者をリアルタイムで検査」と説明しています。これは実証実験の段階であり、空港などでの導入事例は確認できていません。
ピラミッドの透視は別の技術(ミューオン)
ここは非常に誤解されやすいので、はっきり書いておきます。ピラミッドの内部から巨大空間が見つかったニュースは、波動散乱の逆問題とはまったく別の技術によるものです。

2017年11月2日、名古屋大学の森島邦博氏らを含む国際チームScanPyramidsが、クフ王のピラミッド内に長さ30m以上の巨大空間(Big Void)を発見したとNatureに発表しました。
使ったのは宇宙線ミューオンです。宇宙線が大気の原子核に衝突して生じるミューオンは、物質を貫通します。ただし石が厚いところでは減り、空洞があるところでは多く届く。この差を検出器で測って、内部構造を推定したわけです。X線の「影絵」と同じく通り抜けた量を見る方式で、跳ね返りを見る逆問題とは仕組みが違います。原子核乾板・シンチレータ・ガス検出器という3種類の検出器で、独立に確認されています。
これは木村教授の実績ではありません。波動散乱の逆問題とは原理も担い手もまったく別の話なので、混同しないでください。ネット上には両者を混ぜて語っている情報も見かけますが、誤りです。
波動散乱の逆問題で、ピラミッドは透視できるのか
では、波動散乱の逆問題でピラミッドは透視できないのか。対談の後編(07:50〜)で、僕から直接聞いてみました。木村先生の答えは「マイクロ波では深さが足りない」。地面なら100mほど届くレーダーも、石に含まれるイオンに吸収されてしまうそうです。
逆問題として解くには、位相を制御できる波が必要です。将来ミューオンを人工的に発生させて位相を揃えられるようになれば、可能性はある。先生はそんな慎重な見方でした。
宇宙から、地球の中を見る構想
その代わりに先生が語ったのが、小さなレーダーを多数連動させて宇宙に仮想的な巨大アンテナを作り、地球の中を丸ごと見るという構想です。ある国からは「地下鉄工事で、誰が何のために作ったか分からない約1万平米の地下空洞が見つかった。ほかにもあるのでは」と相談を受けているそうです。
さらに、ドローンに重力計を載せて重力異常を測り、逆問題で地下資源の位置を特定するプロジェクトも始まっていて、「実際に金が見つかった」とのこと。いずれもご本人の発言で、公表資料は確認できていません。
文化財の分野で事実として挙げられるのは、木村教授がNHK 4K「太陽の塔 消えた顔を追え」(2025年放送)の調査に協力したことです。
元半導体研究開発者として考えた、半導体テストへの応用(アイデア段階)
この章では、木村教授がすでに取り組んできた電子部品の透視と、それを半導体チップの量産テストに持ち込めないかという僕個人のアイデアを、分けて書きます。
対談のあと、僕の頭から離れなかったのが「これ、半導体のテストに使えないか?」という考えでした。

半導体チップのテストは、テスターからプローブカードを通じて電気信号を入れ、出力が正しく返ってくるかを測るのが基本です。PASSかFAILかは分かる。でも「チップの中のどこで、何が起きているのか」は基本的に見えません。
実は、動いている電子部品を外から透視する研究は、木村教授自身がすでに手がけています。JST A-STEPの事後評価報告書によると、木村教授は研究責任者として、村田製作所と「超小型電子部品の信頼性を保証する透視機能付きインライン顕微鏡の開発」に取り組みました。動作中の電子部品が外に出す磁場の分布から、内部の電流の通り道を可視化する装置とソフトを開発しました(インライン検査用途を想定)。
僕の着想は、それを半導体チップの量産テスト(全数テスト)に持ち込めないかという点です。ここから先は、僕個人のアイデア段階の話です。
チップが動けば必ず電流が流れ、電流が流れれば必ず磁場ができます。だとすると、正常なチップの磁場パターン(磁場シグネチャ)を精密に把握しておけば、異常なチップとの差から「このあたりの電流がおかしい」と特定できるのではないか。チップに触れずに、外から。電池の検査でやっていることを、チップに持ち込むイメージです。
木村教授の出発点も、トランジスタだった
木村教授ご自身も、元は電気電子工学の出身で、トランジスタの研究から出発しています。前編の05:15〜で語られている話です。
シリコン中のドーパント(不純物)が広がり、ショートチャネル効果でゲートのオン・オフが効かなくなる。トランジスタを小さくしすぎると、電気の流れを止める「門」(ゲート)がしっかり閉まらなくなる現象です。それを調べるために破壊検査をしていたけれど、「破壊した瞬間に断面の影響で歪みが出て、何を言っているのか分からない」。そこで当時の指導教員から「中を透視する方法ができたらいいな」と言われたのが、すべての出発点だったそうです。
この話を聞いたとき、僕は思わず笑ってしまいました。僕もちょうど20年前、同じショートチャネル効果を抑えようとしてめちゃめちゃ頑張って、できなくて開発中止になった思い出があるからです。同じ壁にぶつかった二人が、片や透視の数学を作り、片やYouTubeで解説している。不思議なご縁だなと思います。
木村建次郎教授とは?経歴とIntegral Geometry Science
あらためて、木村建次郎(きむら けんじろう)教授のプロフィールと、教授が率いるIGSという会社を、事実ベースで整理します。
経歴と受賞
- 現職: 神戸大学 数理・データサイエンスセンター 教授(2018年4月〜)。神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 教授を兼任(物理化学・物性物理化学)。対談で「今は理学部の化学の教授をやっている」と話されていたのはこちらです。京都大学生存圏研究所の特任教授・連携フェローも務め、研究テーマは「散乱透視学」
- 学歴: 京都大学工学部電気電子工学科 卒(2001年)→ 京都大学大学院工学研究科 → 博士(工学)(2006年)。1978年生まれ
- 職歴: 2006〜2008年 JST研究員(京都大学)→ 2008年 神戸大学大学院理学研究科 講師 → 2012年 准教授 → 2018年 教授
- 主な受賞: 第1回 日本医療研究開発大賞 AMED理事長賞(2017年12月・総理官邸)、i-Construction大賞 優秀賞(国土交通省・2020年)、京都SMI中辻賞(2014年)、応用物理学会 講演奨励賞(2018年・2019年)ほか
- 事業: 株式会社Integral Geometry Science(IGS) 代表取締役(2021年3月〜。2012年の設立時はCSO)
メディア露出も非常に多い方です。NewsPicks「HORIE ONE」に出演した回は140万回再生、堀江貴文チャンネルの回も78.7万回再生を超えています。テレビでは、NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「カズレーザーと学ぶ」、TBS「情報7daysニュースキャスター」、テレビ東京「WBS」などに出演。日本経済新聞、日経ビジネス、Forbes JAPAN、岩波書店『科学』にも取り上げられています。
「ノーベル賞」「Nature掲載」について
検索すると「ノーベル賞」というサジェストが出てくるので、触れておきます。調べた範囲では、木村教授のノーベル賞受賞歴はありません。「ノーベル賞候補」とする一次情報や大手メディアの報道も確認できませんでした。YouTubeの切り抜き動画のタイトルや、個人ブログで見かける表現のようです。僕個人としてはそれくらいのインパクトのある仕事だと思っていますが、それと事実は別の話です。
同様に、「Nature誌に掲載」とされるものも広告記事(ADVERTISEMENT FEATURE)です。理論の公表は、システム制御情報学会誌の解説論文と、9か国で取得した特許が中心です。
Integral Geometry Science(IGS)という会社
株式会社Integral Geometry Scienceは2012年4月2日設立。神戸大学の産官学連携本部棟に本社を置く、いわゆる大学発ディープテック・スタートアップです。資本金1億円。NEDOの資料では、企業価値348億円(シリーズC時点)とされています。
2024年1月には、SBIインベストメントからの第三者割当増資 約20億円と、NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業の助成金を合わせて、総額約45億円を調達したと発表されています。
対談で一番「この人だな」と感じたのは、ホワイトボードでの解説が終わったあとの、この言葉でした。
「僕は元々、電気電子で顕微鏡とか計測器の出口なんですよ。そこに生かされない理論って、何の意味もない。自分が機械を作るときに必要な理論が欲しいだけなんです。ただそれだけなんです」
研究と産業のハイブリッドという言葉を、そのまま体現している方だと思いました。
Integral Geometry Scienceに投資できるのか
投資家の方が一番気になるであろう論点です。結論から書くと、株式会社Integral Geometry Scienceは未上場です。証券コードはなく、個人投資家が直接この会社の株式を買うことはできません。IPO予定の公表も確認できませんでした。
出資を公表している上場企業はありますが、出資比率はいずれも非公表であり、各社の業績に占める影響は極めて小さいと考えるのが自然です。以下は事実の整理であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
IGSへの出資・提携を公表している上場企業
過去のプレスリリースで、IGSへの出資や資本提携を公表している上場企業は次のとおりです。いずれも公表当時の情報で、現在も保有しているかは確認できません。
| 企業(証券コード) | 公表された関わり |
|---|---|
| TOPPANホールディングス(旧 凸版印刷・7911) | 2019年に資本提携。マンモグラフィ用の乳房表面座標シールの提供、蓄電池画像診断システムの販売・受託検査を担当 |
| CYBERDYNE(7779) | 乳がん検診技術とサイバニクス技術の協業 |
| 第一生命ホールディングス(8750) | 子会社の第一生命保険が2億円のインパクト投資 |
| 旭化成(3407) | 出資・資本提携を公表 |
| 日本アジア投資(8518) | 出資・資本提携を公表 |
| SBIホールディングス(8473) | 2024年に子会社のSBIインベストメントが約20億円を出資(第三者割当増資) |
「この銘柄を買えばIGSに投資できる」という捉え方は、事実として不正確です。技術の将来性と、株価材料としての即効性はまったく別の話。これは量子コンピューターの記事でも書いたことですが、ディープテックを見るときの基本姿勢だと思っています。
ちなみに、今回の対談を配信した楽待の運営は楽待株式会社(東証・証券コード6037)で、動画の概要欄にもIRページへのリンクがあります。こちらはIGSとはまったく無関係です。
楽待の対談動画の見どころ
記事では文字で整理しましたが、ホワイトボードに実際に式を書きながら解説していただいた部分は、やはり映像で見ていただくのが一番です。前編・後編それぞれの見どころを紹介します。
前編(2026年9月12日公開・38分):透視の原理をホワイトボードで
動画のタイトルは「【魔法の数式】ガンも半導体も『透視』する!?『波動散乱の逆問題』を、木村建次郎教授が実演」。38分あります。特に見てほしいのは次の4か所です。
- 07:30〜 布の下の磁石が生んだ着想(お子さんとの遊びからのひらめき)
- 10:09〜 透視の原理をホワイトボードで解説(最大の見どころ)
- 25:59〜 波動の力が人命を救う(乳がん検査と「AIを使っても無駄」)
- 33:22〜 従来のCTスキャンと何が違うのか
全10章のチャプターは動画の概要欄にあります。
前編の最後に、次回予告につながる場面があります。電池や超伝導の話の流れで、「本質を先に掴む研究のやり方」について木村先生がこぼしたひとことです。「偉大な科学者はずるいもん。偉大じゃない人ほど、なんかぬめぬめした世界を頑張ってやろうとする」。
思わず「クレイジーですね、それも」と返してしまいました。本質を一撃で掴む人とそうでない人の違いを、これ以上ないくらい端的に表した言葉だと思います。
後編(2026年9月15日公開・36分):電池の発火予知から「水はなぜ零度で凍るのか」まで
その予告どおり、後編は9月15日に公開されました。タイトルは「【人類の夢・高温超伝導】水が『零度で凍る』を数式で証明、エネルギー危機を解決へ!?/地中の金塊も発見…ピラミッドに眠る秘宝は透視できる?」。透視の理論から離れて、木村先生がいま取り組んでいる研究と、研究者としての考え方に踏み込む回です。
- 00:52〜 リチウムイオン電池の爆発阻止:なぜ発火するのか、出荷前にどう見抜くのか(応用②の章で紹介)
- 07:50〜 ピラミッドの秘宝も透視できる?:マイクロ波の限界と、宇宙から地球の中を見る構想(ピラミッドの章で紹介)
- 16:16〜 「水が零度で凍ること」の証明(後編最大の見どころ)
- 21:30〜 新たな未解決問題、勝算は?(「偉大な科学者はずるい」の続き)
- 28:36〜 AIは発明家ではなく「ウシ」
- 30:30〜 第一原理から研究する理由(周期表もボーアモデルも信じなかった高校時代)
後編の核心は、16:16からの「水はなぜ零度で凍るのか」です。当たり前に見えて、実は第一原理(シュレーディンガー方程式)から「0℃」という数字を導いた人はいない、と木村先生は言います。第一原理とは、実験値に頼らず、物理の基本法則だけから計算することです。
なぜ導けないのか。量子化学の計算は基本的に絶対零度、つまり電子が一番下の軌道に張り付いた状態を前提にしています。温度が上がると、電子が「0.1個」「0.001個」と、無限に高い軌道にまで確率的に散らばる。そのため方程式が発散して、解けなくなるからです。
先生のアプローチは、統計物理の分布をシュレーディンガー方程式に組み込み、温度Tを変数として扱える第一原理計算を作ること。「理論はできていて、いまソフトウェア化している」段階だそうです。これができれば、化学反応を温度込みでコンピューターの中で再現できます。その延長で高温超伝導の転移温度も材料ごとに計算できる。つまり、材料探索の実験を丸ごとコンピューターに肩代わりさせられる。これが先生の描く道筋です。
これらは現時点で査読論文やプレスリリースが確認できておらず、ご本人が構想と進捗を語っている段階です。それでも元研究開発者として、聞いていて一番ワクワクした部分でした。
もうひとつ印象に残ったのが、「偉大な科学者はずるい」の続きです。絶対零度(T=0)と超高温(T=∞)は式が簡単になるから、偉い人はその極端しかやらない。残された「中途半端な温度」の領域こそ、化学なのか物理なのか分からない未開拓地で、水が凍る問題はまさにそこにある、と。
AIについての見方も明快でした。いまのAI化学は、人間が過去にやった実験データを参照しているだけ。先生は、そのデータそのものをコンピューター内の第一原理計算で無限に増やしたい。だからAIは、その餌を食べて賢くなる「牛」だと表現していました(楽待のチャプター名では「AIは発明家ではなく『ウシ』」)。
まとめ
数式を導いた人が、その式を活かす装置まで自分で作ってしまう。理論と実装の両方を持つ研究者が日本から出てきて、しかも社会実装まで走っている。元研究開発者として、これは本当に胸が熱くなる話でした。
僕自身の研究開発者としての歩みは経歴ページに書いています。同じく「実用化はいつか」が問われている技術としては量子コンピューターの記事もどうぞ。今回の対談の概要は楽待で木村教授と対談したニュースにまとめています。
半導体・先端技術の解説、監修、取材のご依頼はお仕事のご依頼ページからお願いします。



