ジャパンディスプレイという会社をご存知でしょうか?
2012年に日立、東芝、ソニーの小型液晶事業を統合して作られた会社です。
産業改革機構が2000億円出資し、小型液晶で世界1位のシェアを誇っていました。
しかし、長年の赤字続きで利益を出すことができず、今では破綻しそうになり外国企業に買収されようとしています。
この記事では、なぜジャパンディスプレイが衰退してしまったのか、決算書や技術面から検証し、今後どのようにするべきか解説を行います。
- 統合してもリストラできずに高コスト
- 液晶に注力し、iPhone依存
- 高コストの液晶で競争力を失い、投資を抑えてしまう
- iPhoneは液晶から有機ELへシフト。出遅れる
- 海外企業が液晶に大量投資
私は2003年から2019年まで世界最先端の研究開発を行ってきた元研究開発者です。また、会社を5年経営しています。経営者と研究開発者の目線で、問題点をわかりやすく負荷彫りしていきます。
Youtubeでも解説しています。
もくじ
ジャパンディスプレイが発足されたときは、かなり調子のいいことを言っていた
2012年にジャパンディスプレイができたときには、
- 間接コストは1社分
- 企業価値は3社分以上に
- 2012年に有機ELサンプル出荷
- エルピーダメモリとは違う
と、かなり勢いがある発言をしていました。
確かに3社を統合して不採算事業や不採算な間接部門や工場をリストラすれば、間接コストを圧縮できて、企業価値を高められる可能性があります。
エルピーダメモリとは、日立やNECのDRAMと呼ばれるメモリのメーカーで、ジャパンディスプレイと同じように日本企業が集まってできた半導体の会社なのですが、2012年に破綻してマイクロンに買収されてしまいました。
エルピーダとは違うんだという熱い意気込みが伝わってきますが、実際はもっとひどいものでした。
株価は暴落し、買収されることに
上場した時の公募価格が900円ですが、株価は一度も公募価格を超えることがなく下落の一途をたどり、現在は51円まで下がりました。
そして自社では立ち行かなくなり、台湾と中国の3グループからなる「Suwaコンソーシアム」と資本提携を結び出資を受け入れることを発表されました。
ジャパンディスプレイはリストラができず、コストは3社分以上で開発スピードが遅くなる
リストラをすることができなかった
間接コストを1社分にするためには、今までの不採算事業をリストラ(再構築)する必要があります。
しかし、国の産業改革機構が出資しているため、リストラするとは何事だという圧力があり、リストラをすることができませんでした(リーマンショック後で2012年は不況だった)
日本各地に散らばる小さな工場はそのままとなりました。液晶の場合、大きなガラス基板を切り出して作るため、1枚のガラスのサイズが大きいほうが一度にたくさん作れて安く作れます。
ジャパンディスプレイの工場は茂原工場や白山工場で第6世代の巨大なガラス基板での工場を建設した一方で、すでに時代遅れな小さめのガラスで作っていた工場をそのまま残しました。
そのため古い工場ではコスト競争が厳しい状態でした。しかし、そのコストが厳しい小さい工場をそのままにしてきたのです。(2016年にようやく深谷工場を閉鎖し、茂原工場や東浦工場の3.5世代、4.5世代を閉鎖、2017年に能美工場を閉鎖)
迅速な経営判断ができなかった
日立と東芝とソニーがほぼ対等に合体したので、どの会社が主導を取るのかで体制がややこしくなりました。
さらに産業改革機構が株主となったので、技術のことがわからない産業改革機構の判断を仰ぐ必要があり、迅速な経営判断ができなかったものと思われます。
半導体の世界は、景気の波がとても大きく、迅速な経営判断と投資の判断が会社の命運を左右します。3社が入り混じって統制が取れないところに産業改革機構が入ってきたので、判断スピードがかなり遅れて大混乱となっていたことでしょう。
こういったことから、
- 間接コストは1社分
- 企業価値は3社分以上に
を達成するどころか、逆に間接コストは3社分以上となり、企業価値は3社分以下のスピードとなってしまったのでしょう。
ジャパンディスプレイの衰退の要因
研究開発者として、僕は車や電化製品や半導体などの様々な分野を調べてきました。
ジャパンディスプレイに関しては、衰退の原因を以下のように考えています。
- 統合してもリストラできずに高コスト
- 液晶に注力し、iPhone依存
- 高コストの液晶で競争力を失い、投資を抑えてしまう
- iPhoneは液晶から有機ELへシフト。出遅れる
- 海外企業が液晶に大量投資
人によっていろいろと考えは違うと思いますが、私はこのように考えています。
まず、統合してもリストラをできずに高コスト体制のままになってしまいました。液晶に注力してiPhoneに依存してしまいましたが、望みのiPhoneはハイエンドが有機ELにシフトして高価格帯の液晶のシェアを落とすことになりました。
2012年に有機ELをサンプル出荷といっていましたが、有機ELの技術を立ち上げることはできず、液晶1本槍のままなのでジャパンディスプレイとしては厳しい状況です。
一方で中国企業が液晶に大量投資して、大きなガラス基板で大量生産を行ってきました。すでに液晶ディスプレイはコモディティ化(誰でも作れる汎用製品)しているため、小さなガラス基板で製造を続けているジャパンディスプレイはコストで太刀打ちできなくなってしまったのです。
これがジャパンディスプレイの衰退の原因だと考えています。
技術さえあれば勝てる
その背景には、「技術さえよければ勝てる」という日本の研究開発者のおごりがあると考えています。僕も昔は技術しか追求していませんでしたので、この考えはよくわかります。
湯之上さんの日本「半導体」敗戦の本に詳しく書いてあり、とても勉強になりました。
研究開発で大切なことは、
- 顧客は本当に何を望んでいるのか
- いかに安く作るか
という目線がとても大切になります。
この顧客目線のマーケティング思考がないと、技術者が独りよがりで自分が思う技術を追求してしまい、それが顧客に響かずに買ってもらえない。さらにその価格が高く、コスト競争力がなくなり売れなくなってしまいます。
ジャパンディスプレイは技術ばかりを追っていて顧客の望むものを見てこなかった
- 「有機ELもやるけれど、液晶を進化させて勝負していきたい」。JDIの有賀修二社長
- 「液晶もまだまだ進化の余地はあります」。技術本部のシニアゼネラルマネージャー
- 「中国勢が台頭しているからこそ、新たなイノベーションのタネを仕込み、スピード感をもって市場に出していく必要がある。技術で先行しなければ生き残れないことは承知している」。JDIの本間充会長
- 「パネルメーカーとして顧客からの要望があれば、製品群の一つとして有機ELをそろえるのは当たり前」(有賀社長)。当初の投資も500億円にとどまり、「小さく投資して市場の様子を見る」(本間会長)
これを見ると、技術についてしか話をしておらず、顧客がどのようなものを欲しているのか?いかに安く作るのかという視点が全く入っていないのがわかります。
有機ELも、顧客から要望されているにもかかわらず、「様子を見る」という状態です。この後、iPhoneXが有機ELにシフトしているので、その情報を知らないわけはないのです。それでも液晶の技術しか見ていないというのがよく見えてきます。
すでに顧客は液晶に付加価値を求めておらず、いかに安く普通の液晶を手に入れられるのかということに注目していたのでしょう。高付加価値は有機ELで調達しようという時代の流れについていけずに液晶に誇示したことも失敗の要素かもしれません。
そしてこのインタビューの1年後の2017年に3700人のリストラ行っています。
どうすることもできなくなり、リストラせざるを得なくなったのでしょう。。
いろいろな考え方があると思いますが、初めにリストラして競争力を高めるのか、競争力がなくなってどうすることもできなくなってリストラするのと、どっちが良いことなのか考えさせられます。。
もともと日本は有機ELで世界最先端を行っていた
もともと有機ELでは世界最先端を走っていました。
2004年にはソニーから電子手帳のクリエで有機ELを搭載し、2007年にもソニーから11型の有機ELのTVを世界で初めて商品化しています。
しかし、安く大量生産することができなかったので、このころからLGなどの海外企業に抜かれてしまうことになります。。とても残念でならないです。
ジャパンディスプレイの2018年の決算の解説
2019年5月15日にジャパンディスプレイの2018年の決算書が開示されたので解説します。
売り上げ高に比べて原価が高く、高コスト体制
2018年の売り上げは6367憶円なのですが、原価に6204億円もかかっていてほとんど利益が出ていないことがわかります。粗利のレベルで2.6%というのは低すぎます。
ここから人件費などの販売管理費473億円を引かないといけないので、赤字にならざるを得ないです。
2016年では粗利で7.7%あるので、値段を下げないと売れなくなってきているのだと思われます。
これのことからも他社と比較して安く作ることができず、高コストな液晶しか作れなくなってしまっていることがわかります。
付加価値を付けて高く売ればいいのでは?
という意見もあると思いますが、それが衰退の原因の一つになっています。汎用品となった液晶に付加価値は求められておらず、いかに安いか?が顧客が求めていることなのです。。
売り上げはiPhoneに依存。中国市場では競争力を失う
4半期ごとのジャパンディスプレイの売り上げと地域を見てみると、欧米(iPhone)の売り上げの上下で全体の売り上げがかなり変動しているのがわかります。
ほとんどiPhoneに依存しているので、iPhoneが発売される3Qの売り上げが上がる傾向にあり、iPhoneが売れなくなるとそのままダイレクトに売り上げが下がる危険な構造をしています。
また中国の売り上げがかなり減少しており、これはコストが高いので中国市場でジャパンディスプレイの液晶が売れなくなってきたことを示しているのでしょう。
ジャパンディスプレイの自己資本比率と現金
破産するかどうかは、現金が枯渇するかどうかにかかっています。
現金が枯渇して支払いができなくなると、そのまま倒産になるからです。
現金や買掛金などをまとめてみると、かなり厳しい状況にあることがわかります。
流動資産(1年以内に現金にできる金額)が2900億円しかないのに、流動負債(1年以内に支払いが必要な金額)が4529億円もあるのです。支払いが可能なのかどうか、心配になるレベルです。
- 現金と売掛(商品を売ったけどもらってないお金)が2200億円
- 短期借入金(1年以内に返済必要な借金)と買掛(買ったけど支払ってないお金)が3000億円
の状態なので、全然現金が足りていない状況です。
買掛も、昨年の990億円から1300億円に激増しているので、支払いを先延ばして資金繰りをしている可能性もあります。売り上げがそんなに変わってないのに、買掛が増加する理由は不可解です。
このように決算書上もかなりジャパンディスプレイは厳しい状態にあると思われます。
ジャパンディスプレイは破産するか?まとめ
ここまでジャパンディスプレイがなぜ破産しそうなのか?を解説してきました。
合併したけどリストラができずに高コスト体制になってしまい、技術一辺倒で顧客の要望をつかみきれずに液晶しかないiPhone頼みの状態になり、iPhoneが有機ELにシフトしたタイミングで立ち行かなくなってしまった状態です。
顧客志向になり、本当にどういう商品を求めているのかマーケティングが大切となり、コストを削減していくことがとても大切であることがわかりました。
- 統合してもリストラできずに高コスト
- 液晶に注力し、iPhone依存
- 高コストの液晶で競争力を失い、投資を抑えてしまう
- iPhoneは液晶から有機ELへシフト。出遅れる
- 海外企業が液晶に大量投資
Youtubeでも解説しています。
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