大家族大家
子供や祖父母、兄弟等16人家族で同じ屋根の下に住んでいる。(まだ増えそう、、、)子供達の教育費を稼ぐ為に日々事業や投資活動に勤しんでいる。自分の部屋は無い。国内外の不動産、太陽光発電投資を中心にペーパー資産への投資、社会保険分野(年金、助成金、給与等)や複数の個人法人を最大限に活用した将来を見据えてのキャッシュフローの構築を実践中。そのノウハウを多くの人に共有していきたいというのが最近の想い。(大家族大家さんのコラム一覧)
大家族大家です。今回は生活保護費受給者の方が入居した事例についてお伝えします。厚生労働省のデータによると生活保護者は全国で約210万人います。20年前は90万人程度でしたが、そこから急激に増加し、7~8年前からは雇用の改善等でやや減少しています。
数年前まで所有する全ての物件を自主管理していたので、エイブル、ミニミニ等の大手賃貸仲介会社から地場の仲介会社まで20社ほどに入居斡旋をお願いしていました。
その時に、自社管理物件だと生活保護の方は入居審査に引っかかってしまうことが多いので、大家族大家さんの物件を紹介させてもらえないかというお話がちょこちょこありました。
私は属性で一律に入居を断ることは避けたいと考えています。これまで生活保護者以外にも外国人や定職についていない方等他の賃貸物件では断られそうな方も受け入れてきました。
自分の物件に住みたいと思ってくれるお客様を簡単な書類審査で断るのが感情の部分でできないというのもありましたが、大手が参入しないところにビジネスチャンスがあるという零細企業魂に火がついたからかもしれません。
実際どんな方がいらっしゃったのか幾つか事例をご紹介しようと思います。
もくじ
母子家庭の生活保護の方の入居
生活保護費を受給予定の30代の女性(以下Aさん)と小学生(B君)の2人世帯のお客様を紹介したいと某大手賃貸仲介会社から連絡をいただきました。内見後入居したいとのことでしたので、通常通り入居申込書から賃貸借契約書、鍵の受け渡しまで行いました。
しばらくはなんの問題もありませんでしたが、ある日B君が通っている小学校からうちに連絡がありました。B君が何日も登校していないのでAさんと連絡を取ってくれないかということでした。
早速携帯に何度か電話してみましたが、繋がらないのでAさん宅を訪問しました。呼び鈴を鳴らしても出ないので、連帯保証人になっているお母さんに連絡を取りました。
連絡が取れなかった原因とは
状況を説明すると、30分後に行けるのでその時に鍵を開けてほしいとのことでした。実はお母さんからもAさんに数日前から連絡を取っていたのですが、繋がらなくて心配していたそうです。お母さんの了解の元、玄関の鍵を開けたところチェーンがかかっていました。
室内は静かでしたが、2人はいるようです。お母さんからAさんに部屋に入れてくれるよう何度も呼びかけて15分ほど経ったでしょうか、Aさんがやっと出てきて鍵を開けてくれました。
その先はお母さんにお任せして引き上げましたが、後日Aさんとお母さんから謝罪の連絡をいただきました。どうも精神的に不安定だったようで、母子ともに引きこもりになっていたようです。
お話しているときちんとした方なのですが、お仕事も休みがちで生活していく力が少し足りないように見受けられました。この件以外は大きなトラブルもなく、賃貸人及び管理会社の立場としては特に大変な入居者さんではありませんでした。
母子家庭の生活保護受給者は他にも数人いますが、受け入れるハードルはあまり高くないと思っています。
高齢の単身者の生活保護の方の入居
生活保護者を年齢別で見ると65歳以上が45%を占めていて、さらに増加率が一番高いです。なので、今後単身高齢者の生活保護者の賃貸需要はかなり大きいと思います。
地場の仲介業者さんの紹介で70代男性のCさんが私のアパートに入居しました。
足が悪いとのことで、3F建アパートの1Fに入居していただきました。1Fというのは防犯面や採光で劣るので入居付がしにくく、賃貸経営者としてはありがたい話です。
入居後しばらくして、Cさんの隣に住むDさんから連絡がありました。毎晩数秒毎に「トンッ…トンッ…トンッ…」という音がずっとしていて、これまで気にしないようにしていたが、あまりに眠れないので連絡をしたとのことです。電話では分からなかったので、Dさんのお部屋にお邪魔することにしました。
部屋の中で静かにしていると、確かに「トンッ…トンッ…トンッ…」という音が聞こえます。よく耳を済ますと、Cさんのお部屋の方から聞こえるような気がしました。確証はありませんでしたが、Cさんのお部屋を訪問することにしました。
物音の原因は…
Cさんがご在宅だったので、物音に心当たりがないか聞いてみましたが、分からないという返事でした。
Dさんが困っていることを放置できないと思ったので、了解を取って、中へ入れてもらいました。すると、扇風機の風が掛け軸に当たって、それがDさんのお部屋側の壁に当たっていました。
原因が分かったので、Cさんに事情を説明して音がしないように頼みました。これで一件落着と思いましたが、後日Dさんから状況が改善されていないと連絡が来たので、再度Cさんにお話に行きました。
その場では分かったと言うのですが、このやり取りを数回繰り返した後も変わりませんでした。実はDさんとは反対側にお住いのEさんからもクレームが来ていて、真夜中に大きなテレビの音がするのを何とかしてくれないか、ということでした。
Cさんはほとんど部屋にこもりきりで不規則な生活を送っており、時間に関係なくテレビを見ているようでした。耳も遠いので音が大きくなっていたのでしょう。
ケースワーカーの方に相談
DさんからもEさんからも頻繁に連絡が来るようになり、その都度Cさんにお話に行きましたが改善されず、途方に暮れていました。ある時いつものようにCさん宅を訪問すると、ケースワーカーのFさんがいらっしゃいました。
ケースワーカーとは身体上や精神上のなどの理由によって、日常生活を送る上で様々な困りごとを持つ地域住民の「相談援助業務」に就く人のことを言います。Fさんに状況を説明すると、今後Cさんのことで困りごとがあれば私に言ってください、とおっしゃっていただいたので、FさんからCさんにお話をしてもらうようにしました。
後から思うと、私の話はCさんにうまく伝わっていなかったのかもしれません。
Fさんも動いてくださり今度こそ解決したと思ったのですが、騒音問題はおさまらず、DさんEさんからの苦情は続きました。Dさんに至っては退去したいという申し出もありました。
アパートの所有者としては、お住いの方の住環境を守るのは最も大事な仕事です。生活保護者を担当している市役所の生活支援課に相談することにしました。
市役所の生活支援課に相談
話し合いの末、Cさんの状況が変わらない以上、DさんEさんの住環境を守るため、Cさんに引っ越ししてもらうことになりました。
ここで問題になるのは、Cさんへの説得、お部屋の原状回復費用、引っ越し先を見つけること、引っ越し費用、引っ越し先のお部屋の初期費用です。
Cさんに対しては、私の方からお話したのと、退去通告のお手紙を出しました。原状回復費用は、入居時に敷金2ヶ月分いただいていたので、それを当てることにしました。
実際はタバコの汚れがひどかったので、全然足りませんでしたが仕方ありません。
引っ越し先は、私が懇意にしている個人業者さんを通じて探しました。何とか引受先を探すことができましたが、受け入れてもらえる物件は多くはないので、運が良かったと思います。
引っ越し先は車で10分ほどのところだったのと荷物が少なかったので、引っ越し先の大家さんが募集費用の一部として負担してくれました。
初期費用は保護費から出ることになりました。Cさんの状況については個人業者さんを通じて引っ越し先の大家さんには事前に伝えてありました。
なぜ受け入れていただけたかというと、その物件は生活保護者専用物件として運営されていたからです。
生活保護専用という言葉からは大阪で以前取り上げられていたタコ部屋に浮浪者を詰め込む貧困ビジネスが連想されますが、今回の引っ越し先は20㎡ほどある普通のワンルームアパートですので、住環境としては問題なさそうです。
私のアパートでは、仕事をしていたり子供がいたりで生活スタイルが異なる様々な入居者さんがいたので、トラブルになりやすかったのかもしれません。
生活保護者受け入れの為に物件を取得
今回の件でお世話になった個人業者や市役所の生活支援課の方から、生活保護者を受け入れてくれる賃貸物件が足りなくて困っているというお話を聞いていました。
市で管理している生活保護者を住まわせる施設があるのですが、そこは一時的に住まいを確保する目的の場所で、かつ空きが全然無いそうです。またかなりコストもかかるようで、市役所としても民間のアパートに住んでもらう方が予算的に助かるとのことでした。
これまで何件も受け入れてきた経験もあり、自分の住んでいる地域のお役に立てるということで、事業として成り立つならチャレンジしたいと思いました。
合いそうな物件を探すこと数ヶ月、ついにイメージに近いアパートを探すことができました。12戸のワンルームアパートでしたが、入居が3件しかなくその3件も近いうちに退去予定とのことでした。
このアパートはもともと近くにある大学の学生をターゲットにしていたのですが、新しい賃貸物件が多く建設されたことと、数年前に一部の学部が移転したことで入居者候補となる学生が激減してしまい、需給バランスが崩れていました。
築25年の軽量鉄骨造ですが、必要なメンテナンスを行えば運営には問題なさそうです。古めの建物で入居率が低いので購入金額は抑えられそうです。
一般的な物件より管理が難しい、生活保護制度に依存している、物件取得時入居率0%といった様々なリスクがあったとしても、運営できそうだと感じたので、購入に動こうと思い金融機関に融資の相談に行きました。
しかし、12戸全て空室のアパートに前向きな金融機関は全くありませんでした。そこで、これまでの賃貸業の実績と今回のアパートの満室に向けての計画を1冊の資料にまとめ、粘り強く交渉したところ、1行だけ動いてくれそうな様子でした。
条件はあまりよくありませんでしたが、シミュレーション上収支に問題なさそうだったので、融資をお願いして購入しました。
必要な補修を済ませた後市役所に入居可能なアパートがあることを伝えたところ、早速問い合わせがありました。
すぐに2件入居が決まり、翌月も1件成約しました。そんなペースで募集開始後半年で満室にすることができました。入居率が悪い時期が続くと赤字を補填しなくちゃと思っていたので、ホッと胸をなでおろしました。
金融機関にも1年を目処に満室にする予定です、と言ってあったので担当者に良い報告をすることができました。
もちろんその後の管理が大事なことは言うまでもありません。
ほとんどの方は問題ないですが、仕事をしていない方が多いので、日中もお部屋で過ごす方が多いわけです。そうすると隣人トラブルもちょこちょこ出てきます。優しい対応で済まない場合は、強い態度で接することもあります。
生活保護者のアパートを運営する際の注意点
このアパートのある市では生活保護者の受け入れに積極的だったので次々と入居者が決まりましたが、自治体によっては新規をほとんど受け入れていないところもあるようです。
このアパートの運営が軌道に乗った後、別の自治体にヒアリングに行ったことがあります。役所に行くと担当者の方が対応してくれましたが、この自治体では新規の生活保護者の受け入れは月に1件あるか無いかというレベルとのことでした。不動産というのは同じものが1つとして無い極めて個別性の高いものですが、当然地域によっても全く異なるわけです。
今回は生活保護者のお話をさせていただいていますが、不動産投資の観点で言うと、元々学生向けのアパートだったが、需要が低下したので需要が伸びている方向へターゲットを変えたと言うことです。
これはファミリーの需要が少なくなったから、広めのワンルームへリノベーションしたと言ったことと同じ考え方です。
生活保護者には住宅扶助が出ており、役所から貸主へ直接振り込む制度もあります。そのため家賃の滞納が基本的には生まれません。
ただし生活保護を受けていてもその後充分な収入を得るようになった場合、生活保護費を受給できなくなってしまいます。そうすると、家賃は入居者さんから直接振り込まれるので、滞納の可能性が出てきてしまうので注意が必要です。
生活保護の方の入居の対応まとめ
今回取り上げたようなお話は、比較的低家賃のアパートを所有している方は経験することがあるかもしれません。こういった事例がみなさんの不動産投資のお役に立てれば幸いです。